「安易な妥協はしない」医学部卒業、監査法人勤務の経験を活かして複雑な相続案件に取り組む
福岡県福岡市「水野FUKUOKA法律事務所」の水野遼弁護士(福岡県弁護士会所属)に相続案件の取り組みについて話を聞きました。医学部を卒業後、監査法人に勤務していたという異色の経歴を持つ水野弁護士。相続案件において医学や財務の知識がどのように活かされるのかということや、弁護士に相続問題を相談するメリットについて聞きました。
インタビュー
高度な専門性と調整能力を用いて相続問題を解決
事務所の設立の経緯を教えてください。
2016年に弁護士登録をしました。キャリアのスタートは大阪市内の知財系法律事務所です。その後、地元である福岡に戻り、福岡市内の損保系法律事務所で経験を積みました。そして2019年8月に独立し、現在の事務所を開設しました。
事務所の理念や特徴を教えてください。
事務所の理念は、「弁護士の職責である基本的人権の擁護と社会正義の実現に全力を尽くす」ことです。また、弁護士を身近な存在に感じていただくことも大切にしています。
当事務所の特徴として、デジタル技術を積極的に活用していることが挙げられます。新型コロナウイルスが流行する以前からZoomを使ったオンライン相談を実施していました。書類のやり取りも基本的にデータで行っており、紙の資料をほとんど使用しないペーパーレスの運営を実現しています。
また、LINEを活用することで、依頼者がより簡単に連絡を取れるようにしています。法律問題で不安を抱えている方にとって、気軽に連絡できる手段があることは大きな安心につながると考えています。
相続分野に注力しているのはどのような理由からですか。
相続問題の特徴は、その複雑さにあります。単に法律の知識だけでなく、税金や不動産登記など、幅広い専門知識が求められます。一般の方々がこれらすべての分野に適切に対処するのは非常に困難です。
また、相続問題の多くは、家族間の感情的な対立や複雑な人間関係が絡んでいます。当事者同士が直接話し合うことが難しくなっているケースもあり、客観的な視点から事件全体を見ることのできる弁護士が介入することが、問題解決への糸口となります。
こうした高度な専門性と調整能力を要する相続問題において、依頼者の力になりたいという思いから注力しています。
家族関係は多様化しておりトラブルの内容も複雑化、多様化している
どのような相談が寄せられますか。
遺産分割、遺留分、遺言書の有効性を争うケースが多いです。最近の傾向として特筆すべきは、家族関係の多様化により、一昔前であればイレギュラーなタイプとされたような形態の家族が増えていることが挙げられます。例えば、再婚による親の違う兄弟や前妻の子どもと後妻とによる親子関係などです。
これらのケースでは、法的な権利関係だけでなく、複雑な家族関係や感情的な問題も絡んでくるため、解決が非常に困難になることがあります。
また、兄弟間の不仲や疎遠な関係性がトラブルに発展する傾向もあります。経験上、地元に残って親の面倒を見ていた兄弟と、東京や大阪など都市部に移り住んだ兄弟との間でトラブルが発生する確率が高いように思います。
これは、親の介護や財産管理に関わる負担の差、親との親密度の違い、そして地域による価値観の相違などが要因となっています。都市部に住む兄弟は、親の日々の様子や財産状況を把握しづらく、一方で福岡に残った兄弟は、自分だけが苦労したという思いを抱きます。このような状況が、相続時に表面化し、トラブルの火種となるのです。
そのような感情的な対立に関してはどのように対応するのですか。
依頼者の方がヒートアップしていることもあれば、相手方が激高していることもあります。時には双方が感情的になっているケースもあります。このような状況下での基本的なアプローチは、「冷静に、粛々と事を進める」ということに尽きます。
ただし、ここで重要なのは、依頼者の感情を無視したり抑圧したりしないことです。ヒートアップした感情は、それを表現し尽くさないとクールダウンしないものです。ですから、依頼者の話をしっかりと聞くようにしています。
感情を受け止めた後は、取り得る選択肢を提示します。感情的な判断ではなく、客観的な事実と法律に基づいた冷静な判断を、丁寧に説明を行うことが重要です。
相続案件を手がける上で心がけていることはありますか。
依頼者にとって妥当な金額・内容の財産を確保することです。安易な妥協は避けるようにしています。
そのために最も重要なのは、やはり前提事実をきちんと把握することです。このため、相続財産を細部にわたって精査することが、特に重要になってきます。単に相続財産の内容を把握するだけでなく、その評価にも細心の注意を払っています。
例えば、預金の履歴を細かく見ていくと、一見何でもない取引の中に、重要な情報が隠れていることがあります。この作業は地道で時間のかかるものですが、預金の動きを追うことで、被相続人の資産の流れや、場合によっては隠された財産の存在などが見えてくることがあります。
私は弁護士になる前に監査法人で勤務していました。財務分析や監査業務など監査法人での経験が、このような業務を遂行する上で非常に役に立っています。
相続人同士が直接交渉しないことで得られるメリットとは
相続案件における事務所の強みを教えてください。
監査法人で勤務していた経験が、相続案件において大きな強みとなっています。不動産や株式などの資産価値の評価などにも適確に目配りを行い、適切な分割案を提示することが可能です。
最近は、相続財産の形態が多様化しています。例えば、株式取引のオンライン化により、紙の証券がなくてもネット上で完結する取引が増えています。さらに、ビットコインなどの暗号資産もあります。これらの「見えにくい資産」の存在を突き止め、適切に評価するためには、専門的な知識と経験が不可欠です。
また、私は医学部を卒業しているため、医療の知識を活かすことが可能です。例えば、認知症に関連する案件で、被相続人の遺言能力が問題となるケースがあります。このような場合、病院の入院記録や介護施設の記録を取り寄せ、医学的な観点から分析することが重要になりますが、私はカルテをある程度自分で読めるため、より深い洞察を提供できます。
医学部出身の経歴が活かされる場はほかにもありますか。
医師の友人が多いことから、医療法人の事業承継や病院経営者からの相談を受けることがあります。これらの案件では、関連法令の知識はもちろん、医療業界特有の考え方や慣行について深い理解があることが強みになっています。おそらく、相談する側からしても、医療業界に詳しい弁護士のほうが相談しやすいのではないでしょうか。
時折見られるケースとして、教育コストの違いによるトラブルが挙げられます。例えば、兄は国立大の医学部、弟は私立大の医学部を卒業していた場合、国立大に比べて私立大の学費のほうがはるかにかかることから、兄弟間の不公平感を生む原因となり、相続手続との関係では、特別受益の話が持ち上がることがあります。
最近は、祖父母が孫の学費を出すような事例も増えてきているため、これが病院の後継者問題や相続手続に関係してきた場合、三世代にわたる紛争となることがあり、さらに複雑な様相を呈するようになってきています。
私立医大の場合、卒業までにかかる学費その他の教育コストが数千万円の単位になることも珍しくありません。一方で国公立医大の学費は400万円弱ですから、当然、不満が生じるわけです。こうした背景事情をよく踏まえて検討できることも、強みになっていると思います。
相続問題を弁護士に相談するメリットにはどのようなことがありますか。
相続人同士が直接やり取りしなくて済むという点でメリットが大きいと思います。これには2つの意味があります。
1つは、公平性です。自分で直接交渉すると、相続財産に関する情報量や相続に関する知識の差によって、大きな損失を被る可能性があります。
一部の相続人が財産を開示しなかったり、自身にとって都合の良い主張をした場合でも、内容が法的な観点からみて妥当なものであるかどうか、判断することは容易ではありません。弁護士が介入することで適切な調査を行い、依頼者の権利を守ることができます。
例えば、四十九日が過ぎた頃、おもむろに他の兄弟が遺産分割協議書案を持ってきて、「これにサインしてくれ」と言ってきたような場合は要注意です。その場では絶対に署名・押印に応じず、「持ち帰って検討する」といったん保留した上で、速やかに弁護士に相談するようにしていただければと思います。
2つ目は心理的負担の軽減です。長年にわたる関係性がある相手と、私情を取り払って冷静に話し合うということは難しく、そのこと自体が大きなストレスになります。また、相続をきっかけに、「自分の家族がこんなにも欲深いとは思わなかった」と嘆き、最終的に絶縁してしまうようなケースはそれほど珍しくありません。
家族の嫌な部分を直接見ずに済むというのは、長期的な家族関係の維持という観点からも大きなメリットだと思います。
私がよく依頼者の方々に伝えるのは、「人間、お金が絡むと人が変わる」ということです。また、例として、歴史の話をすることがあります。
中華帝国の王朝では、権力を巡って親兄弟などの親族同士が骨肉の争いを繰り広げてきました。唐の太宗李世民や明の永楽帝などのように、その後に国を発展させた例もあれば、晋の八王の乱や隋の煬帝などのように、最終的に国が滅ぶきっかけとなったような例もあります。
同様のことは、洋の東西を問わず歴史上どの国でも行われており(日本でも、壬申の乱では天皇の後継者問題を巡って内乱に発展しましたし、ヨーロッパの王家は、もとをたどるとほぼ全員親族関係にあります)、ある意味人類普遍の真理と思います。
上記はやや極端な例ですが、要は、自分の家族が相続を巡って揉めていることは、珍しいことでも恥ずかしいことでもなく、人間として生きている以上仕方のないことだ、ということをご理解いただきたいというのが真意です。ですので、堂々と弁護士に相談して、自分の権利を主張してかまいません。
相続問題は感情的な側面が大きい問題です。弁護士がクッションとなることで、依頼者は冷静さを保ちながら、自身の権利を守ることができます。
最後に、相続トラブルを抱えている方へメッセージをお願いします。
一番に強調したいのは、「トラブルになる前に相談してほしい」ということです。
最近の傾向として、中小企業の経営者の方などで、税理士やコンサルティング会社などを利用して節税対策をする方が増えています。しかし、ここで注意していただきたいのは、税金対策にばかり意識が向いてしまうと、法的リスクでの配慮が不足してしまうケースが少なくないということです。
こうした事案では、相続を巡って紛争が発生した場合、かえって解決までのコストがかかることにもなりかねませんし、最悪のケースだと会社自体が倒産してしまうようなこともあり得ます。先ほど歴史の話で、親族間のもめ事がきっかけで国が滅んだ事例を挙げましたが、同様のことは会社などの企業にも当てはまるわけです。
投資の失敗による資産価値の減少、複雑な節税スキームを利用したことによる他の相続人の不信感の高まりなど、良かれと思って行った税金対策がかえって揉め事の原因となることもあります。
弁護士は、遺言書の作成や財産分与の方法など、法的に有効で、かつ家族間の公平性を保つための方策をアドバイスすることが可能です。必要に応じて税理士など他の専門家と連携し、法務と税務の両面からバランスの取れた相続対策を立てることもできます。
不要なトラブルを避けるためにも、ご自身の判断で行動を起こす前にぜひ弁護士にご相談ください。