京都で弁護士歴30年 相続問題に長年注力し、複雑な問題も解決に導く
京都の祇園祭で有名な御池通に事務所を構える川口法律事務所(京都府京都市中京区)の川口直也弁護士に、相続問題について話を伺いました。30年近くの経験を持つ川口弁護士は、複雑化する相続案件に対し、法律知識だけでなく、多角的な視点からアプローチする重要性を説きます。(京都弁護士会所属)
インタビュー
「変化にも対応できるのが、長年の経験を持つ弁護士の強み」
先生の事務所設立の経緯について簡単にお聞かせください。
92年に弁護士登録して、4年後の96年に独立開業しました。同期が独立し始める時期で、私も1人でやってみようと考えたんです。場所は、京都の祇園祭の山鉾巡行が通る御池通に事務所を構えました。祭りが見られる環境を離れたくなかったというのもありますね。
私が入居した頃は景気があまり良くない時期でした。その後、リーマン・ショックの頃には多くの企業が撤退して空き部屋が増えました。オーナーさんがと声をかけてくれて、徐々に同じビルに弁護士事務所が増えていったんです。
今では、このビルは士業の方が多く入居する「サムライ(士)ビル」のような状態になっています。他の弁護士とは競合というより、お互いに情報交換をしたり協力したりする関係になっています。
素敵な場所ですね。では、事務所の理念や大切にしていることについて教えてください。
三つあります。一つは「人とのお付き合いを大事にしたい」こと。二つ目は「人・物・金」のベストミックスな状態で仕事をやりたいこと。三つ目は、「事務所に座ってるだけじゃない他の居場所を持つ」ことです。
具体的には、債権回収会社での仕事経験や、弁護士会の副会長を務めた経験、地方での法律相談など、様々な「居場所」を持つことで多角的な視点を養うことができました。これらの経験が、相続案件を含む様々な法律問題に対応する際の強みになっています。
相続分野における先生の強みについて、詳しくお聞かせいただけますか?
相続に関しては割と早い段階から注力してきました。「人・物・金」のベストミックスの中でも、相続は物に関わる話で不動産とか、人に関わる話で感情的な部分もあり、非常に複合的な分野です。
長年の経験から、一般的にはあまり知られていない「限定承認」や「行方不明者がいる場合の相続」など、複雑なケースにも対応できるようになりました。また、遺産の探索方法や相続人の調査など、独自のノウハウも蓄積してきました。
相続案件の特徴としては、年齢とともに増えてきたということがあります。30代40代の頃と比べて、相続のご相談が増えました。自分自身の親も亡くなり、経験者として依頼者の気持ちがよりわかるようになったのも強みだと思います。
最近の相続の特徴としては、もめ事として深刻化してきていることと、依頼者の方々の知識が深くなってきていることがあります。インターネットなどで情報を得て、より複雑な主張をする人も増えてきています。こういった変化にも対応できるのが、長年の経験を持つ弁護士の強みだと考えています。
「法律家としての仕事の先にある、人と人とのつながりの大切さを実感」
相続案件を手がける際に、心がけていらっしゃることはありますか?
一つは感情の処理ですね。感情的な部分はわかってあげなければなりませんが、そこばかりになってしまうと解決に至りません。最終的には法的な問題として整理し、解決策を見出すことが重要です。
また、相続は単なる財産分与以上の意味を持つ重要な問題です。故人の意思を尊重しつつ、残された家族の未来を守ることを常に意識しています。そのために、依頼者の立場に立って考え、長期的な視点から最適な解決策を提案するよう心がけています。
京都特有の相続問題はありますか?
京都の街中の自宅兼店舗ビルの相続問題で、現在進行形の案件があります。不動産の価値は高いのですが、現金がなく、相続税を払うと何も残らない状態です。遺言があっても遺留分侵害の問題が出てきて、何千万ものお金をどう捻出するかという難しい問題になっています。
このケースは、都市部ではよくある問題です。不動産の価値と現金の問題、遺言と遺留分の問題など、複雑な要素が絡み合っています。このような案件では、法律知識だけでなく、税務や不動産評価の知識、さらには家族関係への配慮など、総合的なアプローチが必要になります。
印象に残っている事例はありますか?
昔扱った案件で今でも印象に残っているものがあります。両親が亡くなった後の二次相続で、行方不明だった長男がいて、お姉さんと末っ子の間で揉めていたケースです。
事情を簡単に説明すると、末っ子が実家で両親の面倒を見ていましたが、相続となると長男と姉にも権利があります。ただ、長男は長年音信不通で、所在がわからない状態でした。
最初は法的な手続きを進めることから始めました。行方不明の相続人がいる場合の対応方法を調べ、不在者財産管理人の選任も検討しました。しかし、調査を進めるうちに、長男の所在が判明したんです。
彼はアルコール依存症で入院歴があり、最後は病院近くのアパートで一人暮らしをしていることがわかりました。私たちは彼に会いに行き、相続の件について話し合いました。
最終的には、遺産分割の合意に至りました。田舎にある田んぼを1枚長男に譲渡することで、他の相続財産については姉と末っ子で分けることになりました。
しかし、この案件の真の価値は別のところにありました。長年生き別れていた兄妹が再会できたのです。その後、兄は断酒会に通いながら、妹とは年賀状のやり取りを続け、時々電話で近況を報告し合うようになりました。
この経験から、相続問題の解決は単に財産を分けることだけではなく、家族の絆を取り戻すきっかけにもなりうるということを学びました。法律家としての仕事の先にある、人と人とのつながりの大切さを実感した案件でした。
今でもこの依頼者とは交流が続いていて、事務所でも最も長いお付き合いになっています。時々、近況報告の電話をいただくと、「あの時、先生に相談して本当に良かった」と言っていただけるんです。これは弁護士冥利に尽きる瞬間ですね。
「相続は複雑で、感情的にも負担の大きい問題。だからこそ、専門家のサポートを受けることが重要」
相続について弁護士に相談するメリットについて、詳しくお聞かせください。
まず、感情と法的問題の切り分けができることが大きなメリットです。相続問題には往々にして感情的な側面が絡みますが、弁護士は第三者の立場から客観的に状況を分析し、感情的な問題と法的な問題を切り分けて対応することができます。
次に、総合的なアドバイスができることです。相続には、法律だけでなく、税金や不動産の問題など様々な側面があります。必要に応じて税理士や不動産鑑定士などの他の専門家と連携しながら、総合的なアドバイスを提供できます。
複雑な手続きのサポートも重要です。戸籍収集や相続財産の調査、各種申請手続きなどを任せることができ、依頼者の負担を大幅に軽減できます。特に、海外に財産がある場合や、相続人が多数いる場合など、複雑なケースでは弁護士のサポートが非常に有効です。
また、トラブルの予防と解決にも貢献できます。例えば、遺言書の作成は将来の相続トラブルを防ぐ有効な手段ですが、法的に有効な遺言を作成するには専門的な知識が必要です。既にトラブルが発生している場合も、調停や訴訟など適切な手段を選択し、解決に導くことができます。
さらに、「限定承認」や「相続放棄」など、一般的にはあまり知られていない選択肢についても、状況に応じて最適なアドバイスができます。相続財産の評価方法や、相続税の節税対策など、専門的な知識を活用した提案も可能です。
加えて、中立的な立場からの調整も弁護士の重要な役割です。相続人同士の意見が対立することも少なくありませんが、弁護士は中立的な立場から各相続人の主張を聞き、公平な解決策を提示することができます。
最後に、将来を見据えたアドバイスができることも大きなメリットです。相続問題の解決は、単に目の前の問題を片付けるだけでなく、その後の家族関係や事業の継続などにも大きな影響を与えます。弁護士は長期的な視点から、将来を見据えたアドバイスを提供することができます。
最後に、相続トラブルで悩んでいる方や、弁護士への相談を考えている方へメッセージをお願いします。
相続問題で悩んでいる方に一番お伝えしたいのは、「一人で抱え込まないでください」ということです。相続は複雑で、感情的にも負担の大きい問題です。だからこそ、専門家のサポートを受けることが重要なんです。
どんな小さな悩みでも構いません。まずは相談に来てください。相続の問題は早めに対処すればするほど、スムーズに解決できる可能性が高くなります。また、生前の対策として遺言書の作成なども検討する価値があります。
相続は、ただ財産を分けるだけの問題ではありません。故人の意思を尊重し、残された家族の未来を守ることでもあるのです。その大切な課題に、私たち弁護士はお客様と一緒に取り組んでいきたいと考えています。一人で悩まず、ぜひ専門家に相談してください。必ず解決への道は開けるはずです。