- 公開日
- (更新日
遺留分割合を簡単にチェック!計算方法やケース別シミュレーションを弁護士が解説
- 監修者の名前
- 堀田善之弁護士
- 監修者の所属事務所
- 堀田法律特許税務事務所
兄弟姉妹以外の相続人とその代襲相続人には「遺留分」が認められています。相続などによって取得した財産が遺留分額を下回った場合は、遺留分侵害額請求を検討しましょう。遺留分額を計算するためには、遺留分割合を確認する必要があります。この記事では、遺留分の計算例やケース別シミュレーションを紹介します。
目次
遺留分とは
「遺留分」とは、相続などによって取得できる財産の最低保障額です(民法1042条1項)。
被相続人は生前贈与や遺贈によって財産を自由に譲渡できますが、相続に対する期待を一定の限度で保護するため、兄弟姉妹以外の相続人とその代襲相続人には遺留分が認められています。
遺留分が認められる人
遺留分が認められているのは、兄弟姉妹以外の相続人とその代襲相続人です。具体的には以下の者に遺留分が認められています。
- 被相続人の配偶者
- 被相続人の子
- 代襲相続によって相続権を取得した、被相続人の直系卑属(孫、ひ孫……)
- 被相続人の直系尊属(相続人である場合に限る)
遺留分の割合
遺留分の割合は、相続人の構成と法定相続分に応じて決まります。
- 直系尊属のみが相続人である場合
遺留分割合=法定相続分×3分の1
- (例)被相続人の父が相続人である場合
→父の遺留分割合は各3分の1 - (例)被相続人の父と母が相続人である場合
→父と遺留分割合は各6分の1(3分の1の遺留分を2人で分ける)
- それ以外の場合
遺留分割合=法定相続分×2分の1
- (例)被相続人の配偶者と子1人が相続人である場合
→配偶者の遺留分割合は4分の1(=2分の1×2分の1)、
子1人の遺留分割合は4分の1 - (例)被相続人の配偶者と子2人が相続人である場合
→配偶者の遺留分割合は4分の1(=2分の1×2分の1)、
子2人の遺留分割合は各8分の1(4分の1の遺留分を2人で分ける)
遺留分額の計算方法
遺留分額は、以下の手順で計算します。
- 基礎財産額を計算する
- 遺留分割合を確認する
- 遺留分額を計算する
基礎財産額を計算する
まずは、以下の財産の総額を計算します。
- 相続財産
- 遺贈された財産(遺言で財産の割合を指定し、特定の誰かに引き継がせた財産)
- 相続人に対して、相続開始前10年間に贈与された財産(婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与の価額に限る)
- 相続人以外の者に対して、相続開始前1年間に贈与された財産
※3と4について、贈与の当時において贈与者と受贈者が遺留分を侵害することを知っていたときは、それより前の期間の贈与も遺留分の基礎財産に含まれます。
上記の財産の総額から、相続債務の全額を控除した額が基礎財産額となります。
遺留分割合を確認する
次に、遺留分割合を確認します。
前述のとおり、直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1が遺留分割合です。
遺留分額を計算する
最後に、以下の式によって遺留分額を計算します。
遺留分額=基礎財産額×遺留分割合
たとえば、基礎財産額が3,000万円で遺留分割合が4分の1の場合、遺留分額は750万円です。
遺留分の計算例、ケース別シミュレーション
基礎財産額が3,000万円であると仮定して、以下の各パターンにつき、実際に遺留分割合と遺留分額を計算してみましょう。
- 配偶者と子2人が相続人の場合
- 配偶者・子1人・孫2人(代襲相続人)が相続人の場合
- 両親が相続人の場合
- 配偶者と弟・妹が相続人の場合
配偶者と子2人が相続人の場合
<設例1>
- 基礎財産額は3,000万円
- 相続人は配偶者A、子B・Cの計3名
設例1では、Aの法定相続分は2分の1、B・Cの法定相続分は各4分の1(2分の1の法定相続分を2人で分ける)です。
遺留分割合は法定相続分の2分の1なので、Aの遺留分割合は4分の1、B・Cの遺留分割合は各8分の1(4分の1の法定相続分を2人で分ける)となります。
したがって、Aの遺留分額は750万円(=3,000万円×4分の1)、B・Cの遺留分割合は各375万円(=3,000万円×8分の1)です。
配偶者・子1人・孫2人(代襲相続人)が相続人の場合
<設例2>
- 基礎財産額は3,000万円
- 相続人は配偶者A、子B、孫D・E(=子Cの死亡によって代襲相続人となった)の計4名
設例2では、Aの法定相続分は2分の1、Bの法定相続分は4分の1、D・Eの法定相続分は各8分の1です。
遺留分割合は法定相続分の2分の1なので、Aの遺留分割合は4分の1、Bの遺留分割合は8分の1、D・Eの遺留分割合は各16分の1となります。
したがって、Aの遺留分額は750万円(=3,000万円×4分の1)、Bの遺留分割合は375万円(=3,000万円×8分の1)、D・Eの遺留分割合は各187万5,000円(=3,000万円×16分の1)です。
両親が相続人の場合
<設例3>
- 基礎財産額は3,000万円
- 相続人は父A、母Bの計2名
設例3では、A・Bの法定相続分は各2分の1です。
直系尊属のみが相続人である場合、遺留分割合は法定相続分の3分の1なので、A・Bの遺留分割合は各6分の1となります。
したがって、A・Bの遺留分額は各500万円(=3,000万円×6分の1)です。
配偶者と弟・妹が相続人の場合
<設例4>
- 基礎財産額は3,000万円
- 相続人は配偶者A、弟B、妹Cの計3名
設例4では、Aの法定相続分は4分の3、B・Cの法定相続分は各8分の1(4分の1の法定相続分を2人で分ける)です。
配偶者の遺留分割合は法定相続分の2分の1なので、Aの遺留分割合は8分の3です。したがって、Aの遺留分額は1,125万円(=3,000万円×8分の3)となります。
一方、兄弟姉妹に遺留分は認められないので、B・Cに遺留分はありません。
遺留分を計算する際の注意点
遺留分を計算する際には、基礎財産を漏れなく把握することが重要です。
基礎財産の把握漏れが生じると、請求できる遺留分額が少なくなってしまいます。被相続人が所有していた財産に加えて、被相続人口座の入出金履歴や贈与契約書などを手掛かりに、生前贈与についても調査を行いましょう。
特に生前贈与については、内容や時期などの調査が難航するケースが非常に多いです。調査方法が分からない場合や、漏れなく調査を行いたい場合は、弁護士にご依頼ください。
遺留分侵害額請求について
実際に取得できた基礎財産の額が遺留分額を下回った場合は、基礎財産を多く取得した人に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます(民法1046条1項)。
遺留分侵害額請求を行うと、実際の取得額と遺留分額の差額に相当する金銭の支払いを受けられます。基礎財産の調査を漏れなく行った上で、適正額の遺留分侵害額請求を行いましょう。
遺留分侵害額請求は、協議・調停・訴訟の手続きによって行います。弁護士に依頼すれば、代理人として適切に対応してもらえるでしょう。
生前贈与や遺言書の内容に納得できず、遺留分侵害額請求を検討している方は、お早めに弁護士までご相談ください。
詳しくは以下の記事で解説しているので、あわせてお読みください。
遺留分侵害額請求とは?請求のやり方や期限、請求された場合の対処法も解説
まとめ
遺留分の割合は、相続人の構成と法定相続分によって決まります。直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1が遺留分割合となります。
適正額の遺留分を確保するためには、遺留分割合の正しい計算に加えて、基礎財産の網羅的な調査が欠かせません。調査によって基礎財産をできる限り発見すれば、請求できる遺留分侵害額を増やすことができます。
弁護士に相談すれば、基礎財産の調査や遺留分割合・遺留分額の計算などにつき、法的な知見と経験を基にしたアドバイスを受けられます。実際の遺留分侵害額請求に当たっても、協議・調停・訴訟の手続きを代理人としてサポートしてもらえます。
他の相続人ばかりが生前贈与を受けていた、遺言書の内容があまりにも偏っていたなど、相続の結果に納得できない方はお早めに弁護士へご相談ください。
- 監修者の名前
- 堀田善之弁護士
- 監修者の所属事務所
- 堀田法律特許税務事務所
大阪弁護士会所属。元国税職員の弁護士が、法務と税務の両面から相続問題の解決をサポートします。相続税に配慮した遺言書の作成や事業承継にも対応しております。相続問題や事業承継について不安や疑問のある方は、お一人で悩まずに、お気軽にご相談ください。
相続ガイド
生涯独身の「おひとりさま」が相続に向けてやっておくと良いこと7選、弁護士が徹底解説
生涯独身の「おひとりさま」が増えています。親族が誰もいない、もしくは疎遠になっている場合、自分が亡くなったあとの財産はどうなるのでしょうか。相続問題に詳しい田中伸顕弁護士に、おひとりさまが相続に向けてやっておくと良いことを聞きました。
「実家放置」の大きすぎる賠償リスク!4月から変わる相続登記のルール、注意すべきポイント
2024年4月1日に改正不動産登記法が施行され、相続登記が義務化されます。土地問題に詳しい荒井達也弁護士は「相続登記義務化をきっかけに、空き家などの不動産を放置したままにするリスクについて改めて考えてほしい」と話します。
相続や遺産分割の弁護士費用の相場はいくら?誰が払う?費用を抑える方法も解説
相続や遺産分割を弁護士に依頼した場合、費用がどのくらいかかるか不安な人もいるでしょう。この記事では、相続や遺産分割を依頼した場合の弁護士費用の内訳や相場を詳しく解説します。費用が払えない場合の対処法や弁護士の選び方についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
遺産を独り占めした人の末路は?そんなことできる?ケース別対処法を解説
相続する際、遺産を独り占めしたいと企む相続人も中にはいるでしょう。「遺産をすべて相続したい」と主張したり、遺産を隠したり使い込んだりするような場合です。また、「一人の相続人に全財産を譲る」という遺言が残されているケースもあります。このような場合でも、他の相続人には自身の相続分を主張する権利があります。この記事では、遺産の独り占めへの対処法を詳しく解説します。
寄与分とは?介護したらもらえる?認められる要件や相場、計算方法を解説
被相続人の生前に、介護や家業の手伝いなどの援助をしていた場合、相続する際に相続の取り分を増やしてほしいと考える相続人もいるでしょう。このようなケースでは、「寄与分」という形で相続分の増額を主張できる可能性があります。 寄与分が認められるのはどのような場合なのか、どの程度の増額が見込まれるのか、といった点について詳しく解説します。