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「実家放置」の大きすぎる賠償リスク!4月から変わる相続登記のルール、注意すべきポイント
2024年4月1日に改正不動産登記法が施行され、相続登記が義務化されます。土地問題に詳しい荒井達也弁護士は「相続登記義務化をきっかけに、空き家などの不動産を放置したままにするリスクについて改めて考えてほしい」と話します。
なぜ相続登記が義務化されるの?
——4月から相続登記の義務化が始まります。なぜ、義務化がされることになったのでしょうか?
なぜ相続登記の義務化が始まったかというと、登記簿を見ても誰が所有者なのか分からない「所有者不明土地」の問題が全国で増えているためです。
所有者が亡くなっても相続登記がされないまま放置される土地が多く、公共事業の際に用地取得ができなかったり、荒廃し周辺に悪影響を及ぼしたりする問題が全国各地で問題となっていました。
所有者が分からない最たる原因が、相続登記がなされていないことにあったため、今回、相続登記が義務化されることになりました。
——具体的にどういった義務の内容なのでしょうか?
相続人の方は、不動産の相続を知ってから3年以内に相続の登記をしないと「10万円以下の過料」の対象となります。
——そうすると、3年以内に相続登記をしなかった場合は、すぐに罰則(過料)が科せられるということになるということですか?
いえ、3年の期限を過ぎたからと言って、実際にすぐに10万円以下の過料を科されるのかというとそうではありません。
法務省が公表している通達によると、法務局は、義務に違反した人を見つけた場合に、いきなり過料の手続を行うわけではなく、先に郵便で催告書を送る流れになっています。
ここですぐに相続登記をすれば、過料は科せられません。
法務省としては、相続登記義務化のルールは過料を科すために作ったのではなく、あくまで相続登記をしてもらうための手段だと捉えています。
もっとも、このような取り締まり方法だと、3年の期限に関係なく、催告書が届くまで待てばよいということになりかねません。そのため、こういった取り締まり方法には疑問も残ります。
そのうえで、今回の義務化という観点とは別に、私は弁護士として、相続登記自体はすぐに行うことをおすすめしています。
相続登記をすぐに行うべき理由は「賠償リスク」
——いったいなぜでしょうか?
近年、集中豪雨による洪水や土砂災害も増えていますよね。
土地所有者には重い責任があるため、土地や建物などが安全性を欠いている状態により、第三者に損害を与えてしまった場合には、賠償責任が発生します。
最近では、2018年に大阪北部地震でブロック塀が倒壊し、直撃した女の子が亡くなる事故が起きました。2021年には静岡県熱海市で土石流が起こり、遺族が土地の所有者を相手に約58億円の損害賠償を求める裁判を起こしています。
2017年には熊本市の県道で、道路に面した私有地から大きな木が倒れ、乗用車を運転していた男性が亡くなる事故がありました。その事故に関する裁判では、土地所有者が何千万円もの損害賠償責任を追うことになりました。
相続登記や住所変更登記などの必要な登記を怠っていると、防災上必要な連絡や災害時の連絡が取りづらくなり、結果的に被害が拡大するおそれがあります。
そうなると、土地所有者の方や相続人の方が莫大な損害賠償責任を負わされる可能性が高まります。
これまで土地は資産だと言われていましたし、危険な持ち物だという認識を持つ方は少ないでしょう。
ただ、大きな災害が毎年のように起きている昨今の事情を考えると、土地所有者が「災害による危険性を認識していなかった」などと主張しても、裁判で勝つのは簡単ではありません。
さらに、人身事故に関する賠償責任は自己破産をしても免責されないことがあります。
今や土地所有の責任はあまりに重いのです。
——では、どうすればいいのでしょうか。建物がある場合、まずは更地にすべきですか?
なかなか難しいところです。
まず、建物を解体するのには、当然、費用がかかります。私が相談を受けた案件の中には、ご実家を解体するのに約1000万円かかると言われたというケースがありました。
弁護士から「損害賠償責任があるから、早く解体しなさい」と言われても、みなが使わない家のために莫大な費用を掛けられるわけではありません。
さらに、解体して更地になると、住宅が建っている土地と比較して固定資産税が高くなります(ただし、適切な管理がされていない空き家については、先般の空家対策特別措置法の改正により、更地と同等の固定資産税が課されます)。
そのため、使わない建物はとりあえず解体すればいいかというと難しいところがあります。
いらない「負動産」を処分する方法はあるの?
——そうなると空き家や土地を手放す方法を考えていくことになりますが、引き取ってもらえるものでしょうか。
近年、売るに売れず持っているだけでマイナスになる「負動産」を処分する方法が、充実してきています。
例えば、2023年4月にスタートした相続した土地を国に引き取らせる「相続土地国庫帰属制度」も選択肢の一つです。
ただ、この制度では、土地のうえに建物がある土地は申請できません。
こういった制限もあり、メディアなどでは国庫帰属制度は、「条件が厳しく使えない制度」と言われることがあります。もっとも、法務省が公表した統計情報によると、審査が終わった165件中、150件が国庫帰属され、却下・不承認は計15件です(令和6年2月29日現在)。
また、国庫帰属制度以外にも、自治体や民間の空き家バンク、お隣さんへの譲渡等、など、別の方法で手放すことができるケースが少なくありません。
「これで必ず手放せる」という手法があるわけではありませんが、「高く売りたい」「損せず売りたい」などこだわらなければ、欲しい人が出てくるケースはあります。
新制度「相続人申告登記」は使うべきか
——4月から「相続人申告登記」という簡易な方法ができると聞きました。まず、これをすればいいのでしょうか?
相続人申告登記というのは、早期に遺産分割をすることが難しい場合のために、自分が相続人であると申し出ることで、申請義務を果たしたことになるというものです。ただ、専門家目線で言うと、あまり良い制度とは思いません。
相続人申告登記は正式な登記とは異なるためです。イメージ的には、登記簿という紙の書類に、付箋をぺたっと貼り付けて「一応私相続人です」と付箋で書いてあるようなものです。
あくまで正式な登記ではなく仮のものですので、例えば不動産を売却する際には、正式な登記がされていないといけません。結局、二度手間になるんですね。
私は、相続が起きたらできるだけ早く遺産分け(遺産分割)をしたうえで、速やかに正式な相続登記を行うことを推奨しています。
——相続登記の義務化をきっかけに、今持っている不動産の管理ができるのかを改めて考えないといけないですね。
そうですね。とりわけ、自分が今住んでいる場所と不動産がある場所が離れている場合、管理コストはさらに高くなるでしょう。
親御さんの中には自分の持っている土地や建物を受け継いでいって欲しいという思いがある方もいます。
ただ、今の時代、不動産は危険な持ち物です。
今40〜50代のこれから相続を迎える世代で、不動産を適切に管理することが難しい方は「土地や建物を残されても十分な管理ができない」と伝え、相続が発生する前に整理してもらうよう伝えることが大事です。
【取材協力弁護士】
荒井達也弁護士/荒井法律事務所
日本弁護士連合会の所有者不明土地問題等に関するWG幹事として相続登記の義務化や相続土地国庫帰属制度の制定に関与。現在は負動産問題を全国の専門家に気軽に相談することができる「負動産の窓口」を運営している(https://souzokutochi-kokkokizoku.com/)
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