「遺留分侵害額請求」とは、相続人が遺留分を確保するために行う請求です。遺留分侵害額請求を行うと、相続などによって財産を多く取得した人から、金銭の支払いを受けられる場合があります。
「遺留分」とは、相続などによって取得できる財産の最低保障額です。 被相続人は生前贈与や遺言書により、原則として財産を自由に処分できます。
その一方で、相続への期待を一定程度保護するため、兄弟姉妹以外の相続人とその代襲相続人には遺留分が認められています(民法1042条1項)。
遺留分侵害額請求は、遺留分に満たない財産しか取得できなかった相続人が、財産を多く取得した者に対して行う請求です(民法1046条1項)。
実際に取得した財産の額が遺留分額に満たない場合、その差額を「遺留分侵害額」といいます。
遺留分侵害額請求を行うと、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを受けられます。
(例)
遺留分額が1000万円である相続人が、500万円分の遺産しか取得できなかった場合
→遺産を多く取得した人に対して遺留分侵害額請求を行い、500万円の支払いを受けられる
遺言書や生前贈与によって多めに財産を取得した方は、相続発生後に他の相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあります。 遺留分侵害額請求を受けた場合は、以下の事項を確認して対応の方針を決めましょう。
遺留分侵害額請求権は、以下のうちいずれかの期間が経過すると時効により消滅します(民法1048条)。
消滅時効が完成していれば、遺留分侵害額請求に応じる必要はありません。まずは消滅時効が完成しているかどうかを確認しましょう。
遺留分侵害額を計算するに当たっては、遺留分の基礎財産額を把握する必要があります。 遺留分の基礎財産額は、以下の財産の総額から相続債務の全額を控除した額です。
※3と4について、贈与の当時において贈与者と受贈者が遺留分を侵害することを知っていたときは、それより前の期間の贈与も遺留分の基礎財産に含まれます。
被相続人が所有していた財産(不動産・預貯金・有価証券など)や、過去に行われた生前贈与を漏れなくリストアップして、遺留分の基礎財産を正確に把握しましょう。
基礎財産の調査が完了したら、以下の式によって遺留分侵害額を計算しましょう。
遺留分侵害額=遺留分額-請求者が実際に取得した基礎財産額
遺留分額=基礎財産額×遺留分割合
遺留分割合は、直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1。それ以外の場合は法定相続分の2分の1です。
(例)
基礎財産の総額が4000万円、相続人は被相続人の配偶者Aと子B・Cの計3名の場合
→Aの遺留分額は1000万円(=4000万円×4分の1)
→Aが500万円の遺産しか相続できなかった場合、Aの遺留分侵害額は500万円
上記の方法によって計算した客観的な遺留分侵害額を、請求を受けている遺留分侵害額と比較します。請求額が客観的な遺留分侵害額の範囲内であれば請求に応じ、超過している場合は請求を争いましょう。
遺留分侵害額請求に応じる場合は、請求者と協議をして金額や精算方法などを取り決めましょう。 遺留分の精算に用いる金銭をすぐに準備できない場合は、資金調達の目途が立つ時期に支払期日を定めるよう交渉しましょう。請求者が難色を示す場合は、弁護士を通じて交渉することをおすすめします。
遺留分侵害額請求の内容を争う場合は、以下のいずれかの手続きによって解決を図ることになります。
請求者との間で、精算すべき遺留分侵害額の減額などについて交渉します。
家庭裁判所で開催される調停によって解決を目指します。民間の有識者から選任される調停委員が、当事者双方から公平に言い分を聞いて調整を行います。合意ができれば調停調書が作成され、その内容に従って遺留分の精算が行われます。
遺留分侵害額の請求調停を申し立てることができるのは、遺留分権利者です。したがって、請求を受ける側は権利者の調停申立てを待って対応することになります。
裁判所の判決によって、遺留分侵害額請求権の有無を判断してもらいます。権利者側が遺留分侵害の内容や金額を立証し、請求を受ける側はそれに反論します。判決が確定すれば、その内容に従って遺留分を精算しなければなりません。
遺留分侵害額請求訴訟は、原則として調停が不成立となった後に遺留分権利者が提起します。したがって調停と同様に、請求を受ける側は権利者の訴訟提起を待って対応しましょう。
遺留分侵害額請求を受けた場合は、特に以下の2点に注意して対応しましょう。
遺留分侵害額請求権は法律上の権利であるため、正当な根拠がある請求を拒否することは困難です。不合理な反論をしても支払うべき金額が減ることはなく、かえって解決が長引いてしまいます。
相続財産等の状況を踏まえた客観的な遺留分侵害額を計算した上で、支払義務があると考えられる場合は、適正な金額を支払う内容での和解を目指しましょう。
遺留分侵害額の支払いが遅れると、その期間に応じて遅延損害金が発生します。遅延損害金の料率は法定利率によるため、年3%です(民法404条2項)。
遅延損害金の起算日は、請求書に記載された支払期限の翌日です。支払期限の記載がなければ、訴訟提起時に訴状が送達された日の翌日が起算日となります。
遺留分侵害額を支払う時期が遅くなればなるほど、遅延損害金は高額になります。請求を受けた時点で迅速に検討を行い、できる限り早期の解決を目指しましょう。
遺留分侵害額請求を受けたら、対応の方針を適切に定めるため、請求が妥当かどうかを法的な観点から検討することが大切です。
請求の当否を判断するに当たっては、相続財産等の調査や民法に従った計算を行う必要があります。弁護士に依頼すれば、これらの対応を適切に行ってもらえるでしょう。 また、権利者との交渉や調停・訴訟への対応についても、弁護士に一任できます。
他の相続人に遺留分侵害額請求をされた場合は、お早めに弁護士までご相談ください。