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相続土地国庫帰属制度とは?国が引き取る土地の要件、手続きの流れや費用を解説

遠方にあるなど管理が難しい土地を相続した場合は、相続土地国庫帰属制度の利用を検討しましょう。不要な相続土地を国に引き取ってもらえる可能性があります。この記事では相続土地国庫帰属制度について、利用要件・手続きの流れ・費用などを解説します。

相続土地国庫帰属制度とは

「相続土地国庫帰属制度」とは、相続または遺贈によって取得した不要な土地を、国に引き取ってもらえる制度です。

相続によって遠方の空き地などを相続した方は、その管理に負担を感じることがよくあります。

アンケート調査でも、空き地所有者のうち5割が土地を所有することに負担を感じたことがあると回答しており、その割合は相続によって空き地を取得した人の間で特に高くなっています(平成30年度版土地白書)。

相続放棄をすれば、管理の負担が大きい土地の相続を回避することは可能です。しかし、相続放棄をすると一切の遺産を相続できなくなります。土地だけをピンポイントで手放せる制度は、従来は存在しませんでした。

そこで、空き地の管理負担が大きな問題になっている状況を踏まえて、2023年4月1日に施行された「相続土地国庫帰属法※」により、新たに相続土地国庫帰属制度が設けられました
※正式名称:相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律

一定の要件を満たす相続土地については、負担金の納付を条件として、国に引き取ってもらうことができます

相続土地国庫帰属制度により、国に引き取ってもらえる土地の要件

相続土地国庫帰属制度の対象となるのは、却下事由と不承認事由がいずれも存在しない相続土地です。

却下事由に該当しないこと

以下のうちいずれかに該当する土地については、相続土地国庫帰属制度の申請が却下されてしまいます(相続土地国庫帰属法2条3項)。

  1. 建物の存する土地
  2. 担保権または使用・収益を目的とする権利が設定されている土地
  3. 通路用地、墓地、境内地、水道用地、用悪水路、ため池が含まれる土地
  4. 特定有害物質により汚染されている土地
  5. 境界が明らかでない土地など、所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地

不承認事由に該当しないこと

以下のうちいずれかに該当する土地については、相続土地国庫帰属制度の利用申請が承認されません(相続土地国庫帰属法5条1項)。

  1. 勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用・労力を要するもの
  2. 土地の通常の管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木その他の有体物が地上に存する土地
  3. 除去しなければ土地の通常の管理・処分をすることができない有体物が地下に存する土地
  4. 以下の土地であって、現に他の土地の通行が妨げられているもの
  • 公道へ通じない土地
  • 池沼、河川、水路または海を通らなければ公道に至ることができない土地
  • 崖があって公道と著しい高低差がある土地
  1. 4のほか、所有権に基づく使用・収益が現に妨害されている土地
    ※妨害の程度が軽微で、土地の通常の管理・処分を阻害しないと認められるものを除く
  2. 1~5のほか、通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として政令で定めるもの

相続土地国庫帰属制度の利用を申請できる人

相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続または遺贈によって土地を取得した相続人に限られます

生前贈与を受けた土地や、相続人以外の者が遺贈によって取得した土地は、相続土地国庫帰属制度の対象外です。

相続土地国庫帰属制度を利用する手続きの流れ

相続土地国庫帰属制度を利用する際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。

  1. 法務局への事前相談
    土地の所在地を管轄する法務局または地方法務局の不動産登記部門に、却下事由・不承認事由の存否や申請手続きなどについて事前相談を行います。

  2. 申請書類の作成・提出
    申請書類を準備して、管轄の法務局または地方法務局に提出します。申請書類の内容は、法務省ウェブサイトにおいて案内されています。

  3. 法務局・地方法務局による審査
    申請書類を受理した法務局または地方法務局は、登記簿などから却下事由の存否を判断します。
    却下事由がない場合は、不承認事由の審査に移行します。実地調査などを経て不承認事由の存否を審査し、不承認事由がなければ相続土地の国庫帰属が承認されます。

  4. 負担金の納付
    国庫帰属が承認された場合は、土地の種目・区域・地積に応じた負担金を支払います。支払期限は、負担金の額の通知を受けた日から30日以内です。

  5. 相続土地の国庫帰属
    負担金の納付をもって、相続土地の所有権が国庫へ帰属します。

相続土地国庫帰属制度を利用する際にかかる費用

相続土地国庫帰属制度を利用する際には、審査手数料と負担金を支払う必要があります。

審査手数料

審査手数料は、法務局または地方法務局に提出する申請書に収入印紙を貼って納付します。審査手数料の金額は、土地1筆当たり1万4000円です。

負担金

相続土地の国庫帰属が承認された場合は、負担金を納付する必要があります。負担金額は、土地の種目・区域・地積に応じて決まります。

土地の種目 負担金額
宅地 面積にかかわらず20万円
※市街化区域または用途地域が指定されている地域内の宅地については、面積に応じて算定
田、畑 面積にかかわらず20万円
※市街化区域もしくは用途地域が指定されている地域内、農用地区域内、または土地改良事業等の施行区域内の農地については、面積に応じて算定
森林 面積に応じて算定
その他(雑種地、原野など) 面積にかかわらず20万円

相続土地国庫帰属制度の申請は、専門家に代理を依頼できる?

相続土地国庫帰属制度の申請手続きは、法定代理人(親権者・成年後見人など)による場合を除いて代理申請が認められず、本人が行う必要があります。したがって、弁護士などの専門家に手続きを一任することはできません。

ただし、申請書等の作成については、弁護士・司法書士・行政書士のいずれかに依頼することができます

相続土地国庫帰属制度以外に土地を手放す方法

相続土地国庫帰属制度を利用できない土地を手放したい場合には、他の方法によるほかありません。具体的には、以下の方法を検討しましょう。

  1. 他の相続人に相続してもらう
    遺産分割協議等を通じて、他の相続人に土地を相続してもらえないかどうか交渉しましょう。

  2. 遺贈の放棄
    遺言書によって特定遺贈を受けた土地については、遺贈を放棄すれば取得せずに済みます(民法986条)。
    ただし、遺贈を放棄された土地は遺産分割の対象となります。ご自身が相続人である場合は、改めて遺産分割を行い、誰が土地を相続するか決める必要があるのでご注意ください。

  3. 相続放棄
    相続放棄をすれば土地を相続せずに済みます(民法939条)。ただし、他の遺産も一切相続できなくなる点に注意が必要です。

  4. 売却・贈与
    他人に対して売却するか、または無償で贈与すれば土地を手放せます。ただし、管理が難しい土地については譲受人が現れないこともあります。

まとめ

相続土地国庫帰属制度は、不要な相続土地をピンポイントで手放すことができる制度です。遠方の土地や管理が難しい土地を相続によって取得した場合は、相続土地国庫帰属制度の利用を検討しましょう。

弁護士には、遺産分割の手続きなどに加えて、相続土地国庫帰属制度の申請書類の作成も依頼できます。

不要な土地がある場合や相続土地国庫帰属制度について分からないことがあれば、弁護士にご相談ください。

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この記事の監修者
監修者の名前
今井良輔弁護士
監修者の所属事務所
虎ノ門法律経済事務所京都支店

京都弁護士会所属。当事務所は東京本店を基軸に全国に30以上のオフィスを展開しており、それぞれが地域に密着した法サービスを提供しています。特に相続の不動産の扱いに幅広いノウハウがあり、最適なリーガルプランを提供します。

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