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成年後見人の費用は誰が払う?報酬の目安や払えない場合の対処法などを解説

成年後見制度は、判断能力が低下した人を詐欺や浪費から守るための対策となります。 ただし、成年後見制度を利用する際には、一定の費用がかかることに注意が必要です。成年後見制度の費用・報酬はいつまで払うのか、報酬が払えない場合の対処法などを解説します。

成年後見人の選任手続きにかかる費用

成年後見人の選任(=後見開始)を希望する場合は、家庭裁判所に対して申立てを行う必要があります。

後見開始の申立てに必要な費用の内訳は以下のとおりで、総額は1万円弱です。

申立手数料 収入印紙800円分
連絡用の郵便切手 3000円~4000円分
登記手数料 収入印紙または登記印紙2600円分
戸籍謄本・住民票等の取得費用 1000円~2000円程度

ただし、後見開始の申立てを弁護士や司法書士に依頼する場合は、数十万円程度の依頼費用が追加でかかります

成年後見人の報酬

成年後見人は、家庭裁判所に対して報酬の付与を請求できます。家庭裁判所は、成年後見人および被後見人の資力その他の事情を考慮して、相当な報酬を成年後見人に与えます(民法862条)。

成年後見人報酬の金額の目安

成年後見人報酬の目安額は、管理する財産の金額に応じて以下のとおりです。

成年後見人が管理する財産の額 成年後見人報酬の目安額(月額)
1000万円以下 2万円
1000万円超5000万円以下 3万円~4万円
5000万円超 5万円~6万円

成年後見人の報酬はいつまで払う?

成年後見人の報酬は、成年後見人がその任務を終了するまで継続して支払う必要があります

成年後見人の任務が終了するのは、以下のいずれかに該当する場合です。

  1. 本人が死亡したとき
  2. 成年後見人が死亡したとき
  3. 家庭裁判所によって後見開始の審判が取り消されたとき
    (例)本人の判断能力が回復したとき
  4. 成年後見人が辞任したとき ※正当な理由がある場合に限る
    (例)病気・高齢・遠方への転居
  5. 成年後見人が家庭裁判所によって解任されたとき
    (例)成年後見人が本人の財産を横領したとき
  6. 成年後見人が欠格事由に該当したとき
    (例)成年後見人が破産したとき、本人に対して訴訟を提起したとき、行方不明になったとき

実際には、本人が死亡するまで成年後見人の任務は続くことが多く、その間ずっと成年後見人の報酬を支払う必要があることにご注意ください。

成年後見人に関する費用や報酬は誰が払う?

成年後見人の選任(=後見開始)に関する申立て費用は、申立人が負担します。本人が申し立てる場合は本人が費用を負担しますが、親族などが申し立てる場合には、自分で申立て費用を負担しなければなりません。

一方、成年後見人が選任された後で支払う報酬については、本人の財産から支払います。申立人が誰であったとしても、成年後見人報酬の負担者は本人です。

なお、後見開始の申立てなどを弁護士や司法書士などに依頼した場合、依頼費用は弁護士や司法書士などと契約した人が支払います

本人以外が契約したときは、依頼費用を本人に請求することは原則としてできません

成年後見人の費用や報酬が払えない場合の対処法

成年後見人の選任申立て費用や報酬が払えない場合は、市区町村の助成制度や法テラスの民事法律扶助を利用できるかどうかご確認ください。

市区町村による助成制度(成年後見制度利用支援事業)

各市区町村は、国や都道府県の財政支援を受けて、後見等開始の申立て費用や成年後見人等の報酬を助成する事業を行っています(=成年後見制度利用支援事業)。

経済的に困難な状況にある方は、成年後見制度利用支援事業の利用を申請すれば、成年後見人に関する費用や報酬の全部または一部につき、市区町村から助成を受けられる可能性があります
成年後見制度利用支援事業は、大多数の市区町村において実施されています。

厚生労働省の調査によると、助成制度の有無について回答があった1741自治体のうち、助成制度があると回答した自治体が97%(1690自治体)にのぼりました(2021年4月1日時点)。このうち、申立て費用と報酬の両方について助成制度があると回答したのは90.4%(1575自治体)です。

成年後見人に関する費用や報酬が支払えない場合は、お住まいの市区町村に助成制度が設けられているかどうかご確認ください。

法テラスによる民事法律扶助(立替払い制度)

後見開始の申立てに当たって弁護士や司法書士に依頼する場合、弁護士費用や司法書士費用が発生します。

経済的に困難な状況にある方は、法テラスの民事法律扶助を利用できるかもしれません。
民事法律扶助を利用すれば、弁護士費用や司法書士費用を立て替えてもらえます(原則として分割払いで返済します)。

民事法律扶助を利用するには、収入や資産などに関する要件を満たす必要があります。利用できるかどうかは、法テラスの担当者にご確認ください。

なお、法テラスの民事法律扶助(立替払い制度)は、あくまでも弁護士費用や司法書士費用だけが対象です。 裁判所に支払う手数料や、成年後見人の報酬は立替払いの対象外である点にご注意ください。

成年後見制度を利用するメリット・デメリット

成年後見制度を利用することには、メリット・デメリットの両面があります。両方の側面を検討した上で、成年後見人等の選任申立てを行うべきかどうか適切に判断しましょう。

成年後見制度を利用するメリット

成年後見制度の大きなメリットは、判断能力が低下した本人を、詐欺や浪費などから守ることができる点です。

成年後見人等が法律行為(契約など)の是非を適切に判断すれば、本人の財産が失われるリスクを回避できます。

また、成年後見人等に代理権が与えられれば、その代理権の範囲内において、成年後見人が本人に代わって契約の締結等を行うことができます。その結果、介護施設への入居などの手続きをスムーズに進められる点もメリットの一つです。

特に認知症が相当程度進行し、判断能力が欠けているのが通常の状態となった人については、成年後見制度を利用するメリットが大きいといえるでしょう。

成年後見制度を利用するデメリット

成年後見制度のデメリットとしては、毎月費用がかかることが挙げられます。

親族が成年後見人等に選ばれれば費用は節約できますが、実際には8割程度のケースで、親族ではない専門家(司法書士・弁護士・社会福祉士など)が成年後見人等に選任されています

専門家が成年後見人等に選ばれた場合は、毎月2万円から6万円程度の報酬を支払わなければなりません。報酬の支払いは長年続くことが多いので、経済的な負担となる可能性があります。

また、成年後見人が本人の財産を使い込むなどして、本人に損害を与えるようなケースも残念ながら散見されます。特に親族が成年後見人になる場合は、使い込み等のリスクが高いと考えられるので注意が必要です。

まとめ

成年後見人の選任に当たっては、まず家庭裁判所への申立てに費用がかかります。申立て費用は総額1万円弱ですが、弁護士や司法書士に申立てを依頼する場合は数十万円程度の依頼費用がかかる点に注意が必要です。

また、選任された成年後見人が家庭裁判所に報酬付与を申し立てた場合には、毎月2万円から6万円程度の報酬を支払わなければなりません。後見の期間が長きにわたると、報酬の負担が重くなる可能性があります。

成年後見人に関する費用や報酬を支払えない場合は、市区町村の助成制度や、法テラスの立替払い制度の利用をご検討ください。
画像素材:PIXTA

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井上界弁護士
監修者の所属事務所
園田法律事務所

兵庫県弁護士会所属。

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