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配偶者居住権とは?メリットや成立する要件、手続きの流れを解説

亡くなった被相続人が所有する建物に住んでいた配偶者には、「配偶者居住権」が認められることがあります。この記事では配偶者居住権について、成立要件やメリット、手続き、注意点などを解説します。

配偶者居住権とは

「配偶者居住権」とは、亡くなった被相続人が所有していた建物に住んでいた配偶者が、その建物に住み続けることができる権利です(民法1028条)。

配偶者居住権が創設された背景

相続財産である建物は、被相続人の配偶者以外の人が相続することもあります。配偶者が住んでいた家が別の人に相続されると、配偶者は家を追い出されてしまうかもしれません。

このような事態を防ぎ、被相続人の配偶者の住居を確保する目的で、2020年4月1日から施行された改正民法によって配偶者居住権の制度が設けられました。

配偶者居住権を活用すれば、遺産価値の大部分を占める不動産(自宅の土地・建物)をバランスの良い形で分割しつつ、配偶者の住居を確保できます

配偶者居住権と所有権の違い

配偶者居住権は、対象建物の全部について無償で使用・収益をすることができる権利です

あくまでも使用収益権に限られており、対象建物の処分は認められません。また、建物所有者の承諾を得なければ、建物の増改築や第三者への貸し出しをすることはできません(民法1032条3項)。

これに対して所有権は、物を自由に使用・収益・処分する権利です(民法206条)。配偶者居住権とは異なり、所有者は原則として、あらゆる方法で物を活用できます。

ただし、所有物について第三者の権利が設定されている場合は、その権利によって所有権が制限を受けます。配偶者居住権が設定されている建物については、所有者は被相続人の配偶者による建物の使用・収益を認めなければなりません。

配偶者居住権の存続期間

配偶者居住権は原則として、被相続人の配偶者が生きている間ずっと存続します。

ただし、遺産分割協議・遺言・家庭裁判所の審判によって別段の定めがなされた場合は、その定めに従います(民法1030条)。

配偶者居住権は2020年からの新しい制度です

配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権は、被相続人の死亡時において、被相続人の財産に属した建物に配偶者が居住していた場合に設定できます(民法1028条1項)。

ただし、配偶者居住権は自動的に発生するわけではなく、以下のいずれかの設定手続きが必要です。詳しくは後述します。

  1. 遺産分割(民法1028条1項1号)
  2. 遺言(同項2号)

配偶者居住権のメリット・デメリット

配偶者居住権の設定を受けると、対象建物の全部について無償で使用・収益をすることができます(民法1028条1項)。配偶者居住権を登記しておけば、その存在を第三者にも対抗できるので、建物が譲渡されたとしても追い出される心配がありません

その一方で、配偶者居住権の設定を受けたとしても、所有者と同等の権限が認められるわけではありません。建物自体を第三者に譲渡することはできず、所有者の承諾を得なければ、増改築や第三者への賃貸などは認められません。

また、配偶者居住権には財産的価値があるため、相続税の課税対象となる点にも注意が必要です。

配偶者居住権に関する手続き

配偶者居住権については、設定および登記の各段階で手続きが必要になります。

配偶者居住権の設定

配偶者居住権を設定する方法は、以下の2通りです。

  1. 遺産分割(民法1028条1項1号)
  2. 遺言(同項2号)

遺産分割

遺産分割協議・調停・審判によって配偶者居住権の取得が定められた場合は、その内容に従って配偶者居住権が発生します。

遺産分割協議の場合は、相続人全員が実印を押印して遺産分割協議書を作成します。調停の場合は調停調書、審判の場合は審判書が、それぞれ家庭裁判所によって作成されます。

関連記事:遺産分割協議書は自分で作成できる!書き方・文例集【ひな形つき】

なお審判による場合には、以下のいずれかに該当する場合に限り、家庭裁判所は配偶者居住権の取得を定めることができます(民法1029条)。

  1. 共同相続人間において、配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき
  2. 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお、配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(1の場合を除く)

遺言

遺言書において配偶者居住権の取得が定められた場合は、その内容に従って配偶者居住権が発生します。

遺言書は、民法で定められた方式に従って作成しなければなりません(民法967条)。原則的な遺言書の作成方式は、自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類です。

関連記事:遺言書とは?作らないとどうなる?3つの種類や作成方法、注意点を解説

配偶者居住権の設定は手続きが必要です

配偶者居住権の登記

配偶者居住権は、登記することができます。配偶者居住権を得た被相続人の配偶者は、建物所有者に対して配偶者居住権の登記を請求可能です(民法1031条1項)。

配偶者居住権の登記手続きは、建物の所在地を管轄する法務局または地方法務局に対して申請します。窓口への持参・郵送・オンライン提出のいずれかの方法により、以下の書類を提出しましょう。

  1. 登記申請書
  2. 義務者の登記識別情報
  3. 登記原因証明情報(遺産分割協議書、調停調書、審判書、遺言書など。遺言書の場合は、公正証書遺言または遺言書保管所で保管されている自筆証書遺言を除き、家庭裁判所の検認証明書も必要)
  4. 被相続人の本籍の記載のある住民票の除票または戸籍の附票の写し(登記上の住所・氏名と最後の住所・氏名が異なる場合、または被相続人の本籍と住所が異なる場合に限る)
  5. 義務者の印鑑登録証明書(3か月以内に作成されたもの)
  6. 委任状(弁護士や司法書士などに登記手続きを委任する場合に限る)

※登記申請書の記載方法および必要書類については、以下のページを参照ください。
関連リンク:不動産登記の申請書様式について(24)配偶者居住権の登記申請書|法務局

配偶者居住権は登記すべき?

配偶者居住権を取得したら、速やかに登記手続きを行うことをおすすめします

配偶者居住権は、登記していれば第三者に対抗できます(民法1031条2項、605条)。将来的に所有者が建物を第三者に譲渡したとしても、配偶者居住権の登記を備えていれば、配偶者は建物から追い出されずに済みます。

これに対して、配偶者居住権を登記していない状態で建物が第三者に譲渡されると、配偶者は建物から追い出されてしまうことになりかねません

このような事態を防ぐため、配偶者居住権を取得したら速やかに登記手続きを行いましょう。

配偶者短期居住権とは(配偶者居住権との違い)

配偶者居住権の創設と同時に、「配偶者短期居住権」も創設されました。

配偶者短期居住権は、被相続人の死亡時に相続財産である建物に無償で居住していた配偶者が、一定期間に限りその建物を無償で使用できる権利です。

相続開始に伴い、いきなり配偶者が家から追い出されてしまう事態を防ぐために、配偶者短期居住権が認められました。

配偶者短期居住権は、配偶者居住権に比べると弱い権利です。具体的には、両者の間には以下の違いがあります。

配偶者居住権 配偶者短期居住権
発生要件 被相続人の死亡時に相続財産である建物に居住しており(有償・無償を問わない)、
かつ遺産分割または遺言によって配偶者居住権の取得が定められたこと
被相続人の死亡時に相続財産である建物に無償で居住していた場合に自動的に発生
※配偶者短期所有権を取得する場合などを除く
建物の収益
※第三者に対する賃貸については所有者の承諾が必要
不可
※使用のみ
存続期間 原則として終身 遺産分割の完了等から6か月間
対象範囲 建物全体 実際に居住・使用していた部分のみ
登記
※所有者に対する登記請求権あり
不可
相続税 課税される 課税されない

配偶者居住権に関する注意点

配偶者居住権は、2020年4月1日に施行された改正民法によって新設されました。したがって、2020年3月31日以前に被相続人が死亡して発生した相続については、配偶者居住権を設定できません

また、被相続人が死亡した時点において、配偶者以外の者と共有していた建物については、配偶者居住権の設定は認められません(民法1028条1項但し書き)。

たとえば被相続人と子が共有していた建物については、その建物に被相続人の配偶者が住んでいたとしても、配偶者居住権を設定できないのでご注意ください。

まとめ

配偶者居住権を上手に活用すると、バランスの良い形で遺産を分割しつつ、被相続人の配偶者の住居を確保できます。弁護士のアドバイスを受けながら、配偶者居住権の活用を含めた適切な遺産分割の方法を検討しましょう。

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この記事の監修者
監修者の名前
太田貴久弁護士
監修者の所属事務所
西川・太田法律事務所

札幌弁護士会所属。相続トラブルは親戚との間で発生します。親戚関係は事件解決後も続くことから、私は、将来を見据えた解決方法を探ることを心がけています。紛争が深刻化する前にお早めにご相談ください。

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