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みなし相続財産とは? 通常の相続財産との違いや相続税の取り扱い、非課税枠などを解説

- 監修者の名前
- 井上界弁護士
- 監修者の所属事務所
- 園田法律事務所
相続税の金額を計算する際には、通常の相続財産だけでなく「みなし相続財産」も課税対象となる点に注意が必要です。この記事ではみなし相続財産について、通常の相続財産との違い・相続税の取り扱い・非課税枠などを解説します。
みなし相続財産とは? 通常の相続財産との違い
「みなし相続財産」とは、法律上の相続財産ではないものの、相続税の課税対象となる財産をいいます。
法律上の「相続財産」とは、被相続人の財産に属した一切の権利義務をいいます(民法896条)。相続人は、遺産分割協議などによって相続財産を分割します。
これに対して「みなし相続財産」は、相続発生前の段階ですでに贈与されている、被相続人ではなく別の人の財産であるなど、法律上の相続財産ではありません。
しかし、被相続人の死亡をきっかけに取得される財産であることや、租税回避を防止する必要があることなどを考慮して、相続財産ではない財産の一部が「みなし相続財産」とされています。
みなし相続財産の具体例
みなし相続財産に当たる財産は、相続税法において列挙されています。
主なみなし相続財産は以下のとおりです。
- 生命保険の死亡保険金・損害保険金
- 死亡退職金
- 被保険者が被相続人以外の者である生命保険の解約返戻金請求権
- 定期金および定期金に関する権利
- 特別縁故者が受けた財産分与、特別寄与料
- 低額での財産譲り受け、債務の免除による利益
- 遺言による信託の受益権
- 相続開始前3年以内(2024年以降は7年以内)に贈与を受けた財産
- 相続時精算課税に基づき贈与を受けた財産
- 事業承継税制により、贈与税の納税を猶予されていた財産
- 贈与税の非課税特例に基づき一括贈与を受けた、教育資金または結婚・子育て資金の管理残額
生命保険の死亡保険金・損害保険金
被相続人の死亡によって支払われる死亡保険金や損害保険金のうち、被相続人が負担した保険料に対応する部分はみなし相続財産となります(相続税法3条1項1号)。
死亡退職金
被相続人の死亡によって支払われる退職手当金・功労金やこれらに準ずる給与のうち、死亡後3年以内に支給が確定したものはみなし相続財産となります(相続税法3条1項2号)。
被保険者が被相続人以外の者である生命保険の解約返戻金請求権
被相続人以外の人についてかけられた生命保険の解約返戻金請求権のうち、被相続人が負担した保険料に対応する部分はみなし相続財産となります(相続税法3条1項3号)。
定期金および定期金に関する権利
被相続人が負担した掛金・保険料に対応する定期金(個人年金など)や、被相続人の死亡によって受給権が発生する定期金はみなし相続財産となります(相続税法3条1項4~6号)。
特別縁故者が受けた財産分与、特別寄与料
相続人がいないケースにおいて、特別縁故者として分与を受けた財産はみなし相続財産となります(相続税法4条1項)。
また、無償で被相続人の療養看護などを行ったことにより、相続人以外の親族が受けた特別寄与料も、その額が確定したものはみなし相続財産となります(同条2項)。
低額での財産譲り受け、債務の免除
遺言によって、著しく低額で財産の譲渡を受けたり、被相続人に対して負っていた借金などの債務を免除してもらったりした場合は、その分利益を得たと考えられ、その利益相当額がみなし相続財産となります(相続税法7条~9条)。
例えば、時価5000万円の土地を1000万円で譲渡を受け、1000万円が著しく定額とみなされた場合、時価との差額は贈与に取得したものとみなされ、贈与税が課税されます。
※贈与に基づく場合は、原則として贈与税の課税対象となります。
遺言による信託の受益権
遺言によって設定される信託の受益権のうち、適正な対価を負担せずに取得したものはみなし相続財産となります(相続税法9条の2)。
※信託契約に基づく場合は、原則として贈与税の課税対象となります。
相続開始前3年以内(2024年以降は7年以内)に贈与を受けた財産
被相続人から生前贈与を受けた財産のうち、贈与の日付が相続開始前3年以内(2024年以降は7年以内)であるものは、原則としてみなし相続財産となります(相続税法19条)。
相続時精算課税に基づき贈与を受けた財産
60歳以上の直系尊属から受けた贈与のうち、相続時精算課税を選択したものはみなし相続財産となります(相続税法21条の9)。
事業承継税制により、贈与税の納税を猶予されていた財産
事業承継に伴って生前贈与を受けた農地や・非上場会社の株式・事業用資産などのうち、事業承継税制によって贈与税の納税を猶予されていたものはみなし相続財産となります(租税特別措置法70条の7以下)。
※一定の要件を満たせば、相続税の納税についても猶予されることがあります。
贈与税の非課税特例に基づき一括贈与を受けた、教育資金または結婚・子育て資金の管理残額
贈与税に関する特例に基づき、直系尊属から一括贈与を受けた教育資金または結婚・子育て資金のうち、相続開始までに使いきれなかった金額は、原則としてみなし相続財産となります(租税特別措置法70条の2の2、70条の2の3)。
みなし相続財産に関する注意点
遺産相続におけるみなし相続財産の取り扱いについては、特に以下の2点に注意しましょう。
- 相続放棄をしても、みなし相続財産は取得できる
- 死亡保険金と死亡退職金には非課税枠がある
相続放棄をしても、みなし相続財産は取得できる
相続放棄をすると、法律上の相続財産は一切相続できなくなります(民法939条)。
しかし、みなし相続財産については、相続放棄をした人でも取得できます。すでに贈与や支払いを受けたみなし相続財産を返還する必要はないので、相続放棄をする際にはご留意ください。
死亡保険金と死亡退職金には非課税枠がある
みなし相続財産である死亡保険金と死亡退職金は、それぞれ「500万円×法定相続人の数」までの金額が非課税となります。
非課税となった死亡保険金または死亡退職金の金額は、相続税の計算から除外しましょう。
ただし、法定相続人の数にカウントできる養子の数は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。
なお、相続放棄をした人がいる場合でも、その人は法定相続人の数に含めることができます。
まとめ
相続税を正しく計算するためには、相続財産だけでなく、みなし相続財産についても漏れなく計上しなければなりません。適切に相続財産等の調査を行い、相続税法の規定に従った税額の計算を行いましょう。
相続税の申告が大変に感じられる場合は、税理士などに依頼することをおすすめします。
遺産分割などについて弁護士に相談・依頼する場合は、弁護士から税理士の紹介を受けられる場合があります。税理士と連携している弁護士に依頼すれば、さまざまな相続手続きについてワンストップで対応してもらえるので便利です。
遺産相続や相続税に関するお悩みは、弁護士にご相談ください。

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