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遺贈寄付とは? メリットや手続き、寄付先の選び方、注意点などを解説
- 監修者の名前
- 永原裕也弁護士
- 監修者の所属事務所
- 永原法律事務所
相続を見据えて遺産の引き継ぎ先を決めるに当たっては、「遺贈寄付」という選択肢もあります。自治体・学校・NPOなどに対して遺贈寄付を行えば、ご自身の財産を社会的に意義がある用途に活用してもらえるでしょう。 この記事では遺贈寄付について、メリット・手続き・寄付先の選び方・注意点などを解説します。
目次
遺贈寄付とは
「遺贈寄付」とは、遺言により、遺産を自治体・学校・NPOなどの団体や機関に寄付することをいいます。
遺言書を作成すれば、遺産を誰に与えるかを自由に決められます。家族などに遺産を与えるケースが多いですが、友人やお世話になった人などに遺産を与えることも可能です。
同じように自治体・学校・NPOなどに対しても、遺言によって遺産を与えることができます。これを「遺贈寄付」といいます。
特に相続人がいない方や、社会貢献への意識を強く持っている方などは、遺贈寄付を選択する方が多いです。
遺贈寄付のメリット
遺贈寄付には、主に以下のメリットがあります。
- 遺産によって社会貢献ができる
社会的に有意義な事業を行う団体・機関等に遺贈寄付をすれば、遺産を通じた社会貢献ができます。 - 相続人がいない場合でも、自分で遺産の承継先を決められる
相続人がいない遺産は最終的に国庫へ帰属しますが、遺言書を作成して遺贈寄付をすれば、遺産の承継先を自分で決められます。 - 税務上のメリットがある
法人に対する遺贈寄付は相続税の対象外となるほか、所得税の準確定申告において寄付金控除を受けられることがあります。
遺贈寄付の手続きの流れ
遺贈寄付を行う際には、以下の流れで手続きを行います。
- 遺言書を作成する
- 遺言者の死亡後、遺言に従って寄付を行う
遺言書を作成する
以下のいずれかの方式により、遺言書を作成します。
- 自筆証書遺言
全文・日付・氏名を自書し、押印して作成します。
※相続財産目録は自書不要 - 公正証書遺言
公証人が、遺言者と証人2名の立ち会いの下で作成します。公正証書遺言の作成は、公証役場に依頼します。 - 秘密証書遺言
署名・押印した証書を封じ、遺言者・公証人・証人2名が封書に署名・押印して作成します。
遺贈寄付を含む内容の遺言書では、遺言執行者を指定することをおすすめします。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、必要な一切の行為をする権利義務があります(民法1012条1項)。信頼できる人を遺言執行者に指定すれば、遺贈寄付をスムーズかつ確実に実行してもらえるでしょう。
遺言執行者には親族のほか、弁護士などの専門家を指定することも可能です。
ただ、遺言書が民法上の方式に従っていない場合は、遺言書全体が無効になってしまいます。この場合、遺贈寄付も行われなくなってしまうので注意が必要です。
遺言者の死亡後、遺言に従って寄付を行う
遺言者が死亡すると、遺言が無効となる場合を除き、遺言書の内容のとおりに遺産の承継が行われます。
遺贈寄付についても、遺言書の内容に従って実行されます。遺言執行者が就任すれば遺言執行者が、遺言執行者がいなければ相続人が遺贈寄付の手続きを行います。
遺贈寄付の手続きとして必要になるのは、遺産の受渡しと名義変更です。
金銭であれば受渡し(振り込みなど)だけで足りますが、不動産については所有権移転登記手続きが必要となります。
遺贈寄付先はどう選ぶ?
遺贈寄付の寄付先としては、自治体・学校・NPO法人などが挙げられます。遺産をどのように活用してもらいたいかを考えた上で、ご自身の意向に沿う寄付先を選択しましょう。
寄付先 | 遺産の使い道(例) | どのような場合に寄付すべきか |
---|---|---|
自治体 | 道路の造成 公共施設の整備 教育への投資 住民サービスの充実 など |
地元の発展に貢献したい場合 自治体の取り組みに共感できる場合 など |
学校 | 教育プログラムの充実 学校施設の拡充 生徒募集のPR など |
母校の発展に貢献したい場合 学校の取り組みに共感できる場合 など |
NPO法人 | 社会的弱者の支援 事業内容に関する広報活動 政府や自治体に対するロビイング など |
社会課題の解決に強い関心を持っている場合 事業内容に共感できる場合 など |
遺贈寄付に関する注意点
遺贈寄付を行う際には、以下の各点に十分ご注意ください。
- 相続人の遺留分に配慮する
- 寄付先に受け取る意思があるかどうか確認する
- 相続税の取り扱いを確認する
- 遺贈寄付を勧誘する詐欺業者に要注意
相続人の遺留分に配慮する
兄弟姉妹以外の相続人には、相続できる遺産の最低保障額である「遺留分」が認められています(民法1042条1項)。
遺留分が認められる相続人がいるにもかかわらず、遺産の大半を遺贈寄付に回してしまうことは危険です。相続人が寄付先に対して遺留分侵害額請求(民法1046条1項)を行い、相続トラブルに発展するおそれがあります。
遺贈寄付を行う際には、相続人の遺留分に配慮して金額等を調整することが望ましいでしょう。
寄付先に受け取る意思があるかどうか確認する
受遺者(=遺贈を受け取る人)には、遺贈を放棄することが認められています(民法986条)。寄付先に遺贈を放棄されてしまうと、遺贈寄付を全うすることができません。
遺贈寄付を行う際には、あらかじめ寄付先に連絡して、受け取る意思があるかどうかを確認しておきましょう。
相続税の取り扱いを確認する
法人に対して遺贈寄付を行う場合、その遺産は相続税の課税対象外となるのが原則です。ただし、遺贈寄付が租税回避に当たると判断され、相続税が課されてしまうケースもあります。
また、寄付先以外に遺産を承継する相続人等に対しては、相続税が課されることがある点にも注意が必要です。
遺贈寄付を行う際には、税理士に相談しながら、相続税の取り扱いについてあらかじめ検討しておきましょう。
遺贈寄付を勧誘する詐欺業者に要注意
相続人がいない人や、社会貢献への意識が高い人などを標的として、遺贈寄付を勧誘する詐欺業者が存在します。
詐欺業者に対して遺贈寄付を行ってしまうと、遺産が期待していた用途に使われず、詐欺業者の私腹を肥やすだけの結果になってしまいます。
詐欺業者を避けるためには、自治体や学校、国際的に著名な慈善団体などを寄付先に選ぶのがよいでしょう。これに対して、聞いたことのない法人に対しては、遺産の使い道などについて共感できる部分があったとしても、遺贈寄付は行わない方が賢明です。
なお、遺言書を一度作成したとしても、新たな遺言書を作成すれば撤回できます(民法1023条1項)。
寄付先に指定した法人について、詐欺業者である疑いが生じた場合には、新たな遺言書を作成して遺贈寄付を撤回しましょう。
まとめ
相続人がいない場合や、社会的に意義のある形で遺産を活用してほしい場合は、遺贈寄付が有力な選択肢となります。自治体・学校・NPO法人などから、ご自身の意向に従って寄付先を選べる点が遺贈寄付のメリットです。
遺贈寄付に当たっては、寄付先の選定や意思確認、相続税の取り扱いなどに注意する必要があります。特に、遺贈寄付を勧誘する詐欺業者には十分注意しなければなりません。
遺贈寄付を検討している方は、弁護士への相談をおすすめします。寄付先の選定に関するアドバイスを受けられるほか、遺言書の作成についてもサポートを受けられますので、お近くの弁護士に連絡をとってみましょう。
- 監修者の名前
- 永原裕也弁護士
- 監修者の所属事務所
- 永原法律事務所
愛知県弁護士会所属。遺言書作成から遺留分・遺産分割まで幅広く相続の対応をしている。相談者に「安心」を提供することをモットーに、司法書士・税理士や不動産・保険等の専門家とも連携し、相談者一人一人の事情に沿ったオーダーメイドの解決をしている。
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