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遺産分割協議書が無効・取り消しとなるケースは?8つのパターンと手続きを解説

遺産分割協議書の作成後に不備に気づいたり騙されて合意したりした場合には、遺産分割協議書の無効や取り消しを主張できる可能性があります。この記事では、遺産分割協議書の無効や取り消しを主張できるケースや手続きについて詳しく解説します。

遺産分割協議書の無効や取り消しを主張できる場合がある

遺産分割協議書は、相続人が遺産を分割する際に合意した内容を書面にしたものです。遺産分割協議に合意して遺産分割協議書に署名した場合、その内容を後から変更することは原則としてできません。

しかし、無効事由や取り消し事由がある場合には、遺産分割協議書の無効や取り消しを主張できる場合があります。

無効と取り消しの違いは?

遺産分割協議書に無効となる理由(無効事由)がある場合、遺産分割協議書はそもそも始めから効力を生じていません。無効な遺産分割協議書は、当然に無効です。交渉や裁判では無効であることの主張が事実上必要になりますが、無効主張によって遺産分割協議書が無効となるわけではありません。

一方で、遺産分割協議書に取り消す理由がある場合、取り消されない限りは遺産分割協議書は有効です。取り消しを主張できる人(取消権者)が意思表示すると、遺産分割協議書はその成立時にさかのぼって無効となります。

無効と取り消しの違いは、当事者の意思表示が必要かどうかにありますが、最終的に遺産分割協議書が無効となる点は同じです。

遺産分割協議書が無効になるケース

遺産分割協議書が無効になる可能性があるのは、たとえば次のようなケースです。

  • 遺産分割協議書の署名が偽造だった場合
  • 相続人全員が遺産分割協議に参加していない場合
  • 一部の相続人が意思能力を欠いていた場合
  • 特別代理人の選任を怠った場合
  • 遺産分割の内容が公序良俗に反する場合

遺産分割協議書の署名が偽造された場合

遺産分割協議書に他人が無断で署名した場合、その遺産分割協議書は無効となります。

本人の同意を得て代筆した場合は原則として有効ですが、本人が認知症などで判断能力がなかったと疑われるケースは無効となる可能性があります。

一方で、遺産分割協議書に書かれている日付が、実際に署名した日付と異なる場合や、空欄になっている場合、遺産分割協議書は直ちには無効にはなりません。

ただし、日付に不備のある遺産分割協議書に基づいて預金の払い戻しや相続登記などの手続きを進めようとした場合、金融機関や法務局が手続きを拒否する可能性があります。

相続人全員が遺産分割協議に参加していない場合

遺産分割協議は、相続人全員の参加が必要です。遺産分割協議に参加していない相続人がいる場合、遺産分割協議書は無効です。

誰が相続人かは、戸籍で確認することが一般的です。

行方不明の相続人がいる場合には、不在者財産管理人を選任して、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加してもらうことで、遺産分割協議を成立させることが可能です。

意思能力を欠く相続人が遺産分割協議に参加していた場合

遺産分割協議に意思能力を欠く相続人が参加していた場合、遺産分割協議およびそれに基づく遺産分割協議書は無効となります。

意思能力を欠く状態とは、精神上の障害により、自分の行為の結果を理解したり、適切に判断できない状態を指します。認知症、知的障害、精神障害などがその一例です。

相続人の中に意思能力を欠く者がいる場合には、意思能力の程度により成年後見・補佐・補助を申し立てて、選任された成年後見人・補佐人・補助人が相続人の代わりに遺産分割協議に参加することで、有効な遺産分割協議を実施できます。

特別代理人の選任を怠った場合

相続人の中に未成年の子がいて、その子の親も相続人である場合には、親と子の利害が互いに反する関係(利益相反関係)にあるため、親が子の法定代理人として遺産分割協議に参加できません。このような場合には、子の特別代理人を選任する必要があります。

子の特別代理人を選任せずに、親が子の法定代理人として遺産分割協議に参加した場合には、遺産分割協議およびそれに基づく遺産分割協議書は無効となります。

遺産分割協議の合意した内容に公序良俗に反する条項が含まれている場合

遺産分割協議で合意した内容に公序良俗に反する条項が含まれる場合には、遺産分割協議は無効となります。

公序良俗に反する内容とは、法律や社会的な倫理規範に違反するような内容を指します。例えば、違法な薬物取引や犯罪行為、基本的人権を侵害するような内容が遺産分割協議書に含まれる場合が考えられます。

遺産分割協議書全体が無効となるのか、公序良俗に反する条項のみが無効となるのかについては、いずれの見解も主張されています。詳しく知りたい方は専門家へご相談ください。

遺産分割協議書を取り消しできるケース

遺産分割協議書を取り消しできるのは、たとえば次のケースです。

  • 重要な勘違いをして合意した場合(錯誤)
  • 騙されて合意した場合(詐欺)
  • 脅されて合意した場合(強迫)

重要な勘違いをして合意した場合(錯誤)

遺産分割の内容について重要な勘違いがあった場合、錯誤があったとして遺産分割協議書を取り消すことができる可能性があります。

たとえば、「時価2000万円の価値のある遺産を、ほとんど無価値と勘違いして他の相続人に譲った」といったケースです。

遺産分割協議の基礎とした事情(動機)に錯誤があった場合には、その動機が他の相続人に対して表示されていることも必要です。例えば、「遺産の土地の近隣に土地開発計画がある(その結果、将来的には地価の上昇が見込める)」と勘違いして、他の遺産を他の相続人に譲って土地を相続する遺産分割協議に合意した場合です。この場合錯誤を主張するためには「土地の近隣に土地開発計画がある」という動機が他の相続人に表示されている必要があります。

ただし、こうしたケースでも、少し調査すれば遺産の価値が時価2000万円程度であることが容易にわかった、土地開発計画などないことがわかったといえるような事情がある場合、重大な過失があったとして、取り消しを主張することができなくなります。

また、錯誤による取り消しが認められる場合でも、錯誤があったことを知らず、知らないことに落ち度のない(善意無過失の)第三者がいる場合には、その第三者に対して錯誤による取り消しを主張できません。例えば、遺産を第三者に売却や譲渡した後に、錯誤による取り消しを主張した場合、第三者が善意無過失であれば、その第三者に対して取り消しを主張できません。

騙されて合意した場合(詐欺)

他の相続人に騙されて遺産分割協議に合意した場合、詐欺を理由に遺産分割協議書を取り消すことができます。 例えば、他の相続人が遺産を隠していた場合などが挙げられます。

ただし、善意無過失の第三者には、錯誤の場合と同様に、詐欺による取り消しを主張できないので注意が必要です。

脅されて合意した場合(強迫)

他の相続人に脅されて遺産分割協議に合意した場合、強迫を理由に遺産分割協議書を取り消すことができます。 例えば、他の相続人から家族に危害を加えると言われて合意した場合などが挙げられます。

強迫による取り消しの場合には、錯誤や詐欺の場合と異なり、善意無過失の第三者にも強迫による取り消しを主張できます。

遺産分割協議書の無効や取り消しを主張する手続き

遺産分割協議書の無効や取り消しを主張するには、主に以下の方法があります。

  • 遺産分割協議のやり直し
  • 遺産分割調停
  • 遺産分割の無効確認請求訴訟

遺産分割協議のやり直し

相続人全員の合意があれば、遺産分割協議をやり直すことができます。 まずは遺産分割協議書の無効や取り消しを主張して、他の相続人に遺産分割協議のやり直しを求めましょう。

遺産分割調停

相続人との交渉で遺産分割協議をやり直せない場合には、調停手続きを利用することで、裁判所の関与のもとに協議を進めることができます。 調停にはいくつかの種類があります。

遺産分割協議をやり直すことについて、他の相続人の合意が取れている場合には、「遺産分割調停」を申し立てます。

詐欺や強迫があった場合や、相続人全員が参加していなかった場合、一部の相続人が意思能力を欠いていた場合には、「遺産分割協議無効確認の調停」を申し立てます。

遺産分割協議書が偽造されていた場合には、「遺産分割協議不存在確認の調停」を申し立てます。

調停が不成立になった場合は、裁判を起こして遺産分割の無効を主張していくことになります。

無効や取り消しを主張できるのは誰?

遺産分割協議書の無効は、原則として誰でも、誰に対しても主張できます。

取り消しを主張できるのは、錯誤や詐欺・強迫の場合には意思表示をした本人、意思能力を欠く場合や特別代理人の選任を怠った場合には未成年者や成年被後見人・被保佐人・被補助人といった本人です。また、本人の代理人や承継人も取り消しを主張できます。

無効や取り消しの期限は?

無効の主張には期間制限はありません。

取り消しの主張には時効があります。追認(取り消しできる法律行為を有効であると認めること)できるときから5年、または法律行為のときから20年経過すると、取り消しを主張できなくなります。

まとめ

遺産分割協議書の内容に不本意ながら同意した場合や、署名を偽造された場合には、無効や取り消しを主張できる場合がありますが、個別の事情により異なります。遺産分割協議書の無効や取り消しを主張したい場合には、まずは一度弁護士に相談しましょう。

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この記事の監修者
監修者の名前
井上界弁護士
監修者の所属事務所
園田法律事務所

兵庫県弁護士会所属。

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