相続弁護士 ドットコム
公開日
(更新日

相続放棄ができない・認められないケースとは?失敗しないための注意点も解説

相続放棄をすれば亡くなった人の借金を相続せずに済み、遺産分割協議に参加する必要もなくなります。ただし、相続放棄が家庭裁判所に受理されず、却下されてしまう場合もあるので注意が必要です。この記事では、相続放棄ができない・認められないケースや、相続放棄を失敗しないための注意点などを解説します。

相続放棄は受理されることが多い

相続放棄に関するルールは民法で定められており、民法のルールに従わない相続放棄の申述は、家庭裁判所によって却下されることがあります

ただし、相続放棄の申述が却下されると、相続人は相続放棄をしたことを主張できなくなってしまいます。その不利益が大きすぎるため、家庭裁判所は却下すべきことが明らかな場合を除き、相続放棄の申述を受理すべきであると解されています(東京高裁平成22年8月10日決定参照)。

そのため、実際に相続放棄の申述が却下されるケースは少ないです。令和4年度の司法統計によると、同年度における既済件数25万8,933件のうち、却下されたのは400件(0.15%)となっています。

出典:令和4年 司法統計年報 3家事編 p12-13|裁判所

しかし、後から相続放棄の要件を満たしていなかったことが判明すると、相続放棄が無効になってしまうおそれがあります。相続放棄をする際には、民法のルールを踏まえた上で、慎重な行動を心がけましょう。

相続放棄ができない・認められないケース

相続放棄の申述が受理されずに却下され、またはすでに受理された相続放棄が無効になってしまうのは、主に以下のいずれかに該当する場合です。

  • 熟慮期間が経過した場合
  • 法定単純承認が成立する場合
  • 申述書類に不備がある場合

熟慮期間が経過した場合

相続放棄は原則として、自己のために相続が発生したことを知った時から3か月以内に行わなければなりません(民法915条1項)。この3か月間を 「熟慮期間」 といいます。

熟慮期間が経過すると、原則として相続放棄が認められなくなってしまいます。

ただし後述のとおり、熟慮期間が経過しているケースでも、実際には相続放棄が認められることが多くなっています

法定単純承認が成立する場合

以下のいずれかに当たる行為をした場合は「法定単純承認」が成立し、相続放棄の申述が却下され、またはすでに行った相続放棄が無効となってしまいます(民法921条1号、3号)。

①相続財産の全部または一部の処分

(例)

  • 相続財産の売却
  • 相続財産の贈与
  • 相続財産である建物の取り壊し
  • 被相続人が借りていた賃貸物件の解約
  • 被相続人が使っていた携帯電話の解約
  • 相続財産を用いた債務の支払い
  • 相続した債権について受けた弁済金を自分のものにすること
    など

②相続放棄後における以下の行為

(a)相続財産の全部または一部の隠匿

  • 相続財産に関する質問に対して、虚偽の回答をすること
  • 相続財産を持ち出して隠すこと
    など

(b)相続財産の全部または一部の私的な消費

  • 相続財産である預貯金の使い込み
  • 相続財産の売却
  • 相続財産の贈与
    など

(c)相続財産の全部または一部を、悪意で相続財産目録中に記載しない行為

  • 遺言執行者として作成した相続財産目録に、一部の遺産を意図的に記載しないこと
    など

申述書類に不備がある場合

相続放棄に必要な書類が揃っていない場合、相続放棄の申述は受理されません。この場合は、どの書類が足りないのか家庭裁判所に確認して、速やかに必要書類を追完しましょう。

相続放棄の必要書類は、裁判所ウェブサイトに掲載されています。

参考:相続の放棄の申述|裁判所

熟慮期間が過ぎても、相続放棄は認められることがある

前述のとおり、熟慮期間(=自己のために相続が発生したことを知った時から3か月以内)が経過してしまうと、原則として相続放棄は認められません。

しかし、亡くなった被相続人の遺産や借金などは、簡単に調査できるとは限りません。被相続人本人しか知らなかった遺産や借金が後から判明し、そこで初めて相続放棄をすべきだったことが分かるケースもよくあります。

熟慮期間のルールを厳密に適用すると、上記のようなケースにおいて、相続人が多額の借金などの相続を強いられる酷な結果になってしまいます。

そこで実務上は、相続放棄が遅れたことについて合理的な理由があれば、比較的緩やかに相続放棄が認められています

たとえば最高裁昭和59年4月27日判決では、以下の2つの要件を満たす場合には、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識し得る時から熟慮期間が起算すると判示しています。

  1. 熟慮期間内に相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全くないと信じたためであること
  2. 被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人が①のように信ずるについて相当の理由があること

参考:最高裁昭和59年4月27日判決|裁判所

また実務上は、上記の判例の要件よりも幅広く、熟慮期間後の相続放棄が認められる傾向にあります。

たとえば、被相続人の借金が判明してから3か月以内に相続放棄を行った場合などには、相続放棄が認められているケースが多いです。

熟慮期間が経過してしまっても、相続放棄を諦めずに弁護士へご相談ください。

相続放棄について失敗しないための注意点

相続放棄の判断や手続きを失敗しないようにするためには、特に以下の各点にご注意ください。

  • 遺産の調査を正しく行う
  • 早めに準備を始める
  • 遺産に手を付けない

遺産の調査を正しく行う

相続放棄は、一度家庭裁判所で申述手続きを行うと、重要な錯誤・詐欺・強迫などのケースを除いて取り消すことができません

相続放棄をすると、遺産を一切相続できなくなります。それでも構わないか、相続放棄をする前によく検討しましょう。

具体的には、被相続人の遺産と債務(借金など)を十分に調査した上で、どちらが多いかを比較する必要があります。

遺産や債務の把握漏れがあると、債務の方が多いと勘違いして相続放棄をしたり、逆に遺産の方が多いと勘違いして相続放棄を見送ったりして、後悔するおそれがあるので要注意です。

弁護士などに依頼して、遺産や債務の網羅的な調査を行ってから、相続放棄をすべきかどうか適切に判断しましょう

早めに準備を始める

熟慮期間(=自己のために相続が発生したことを知った時から3か月以内)が経過すると、相続放棄が認められないリスクが生じます。

実際には熟慮期間経過後の相続放棄が広く認められているとはいっても、確実ではありません。遺産の調査や必要書類の取得に時間がかかるケースもあるので、熟慮期間内に申述手続きを終えられるように、早めに相続放棄の準備を始めましょう。

遺産に手を付けない

相続放棄の前後で遺産を処分すると、法定単純承認が成立するリスクがあります。家庭裁判所が相続放棄の申述を受理したとしても、後から相続債権者に法定単純承認を指摘されてトラブルになることもあり得ます。

相続放棄をする際には、遺産には一切手を付けないようにしましょう。判断が難しい場合は、弁護士にご相談ください。

相続放棄が却下された場合の対応

家庭裁判所によって相続放棄の申述が却下された場合、即時抗告を行うことができます(家事事件手続法201条9項3号)。即時抗告の期間は、却下の審判の告知日から2週間以内です(同法86条1項、2項)。

即時抗告に当たっては、却下が不当である理由を根拠に基づいて主張する必要があります。裁判所に対して適切に主張が伝わるように、弁護士のサポートを受けながら準備を整えましょう。

まとめ

相続放棄の申述が却下されてしまうのは、熟慮期間が経過した場合や、相続財産の全部または一部を処分した場合などです。また、相続放棄の申述が受理された場合でも、後に相続財産の隠匿や私的な消費などを行うと、相続放棄が無効になるおそれがあります。

相続放棄に当たっては、前後の行動について数多くの注意点が存在します。不適切な行動によって相続放棄が認められなくなることを防ぐため、弁護士のアドバイスを踏まえて慎重に行動してください。

阿部由羅弁護士の画像
この記事の監修者
監修者の名前
阿部由羅弁護士

ゆら総合法律事務所代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

相続ガイド