- 公開日
- (更新日
成年後見人になれる人とは?家族はなれる?あとから変更できるのかも解説
- 監修者の名前
- 太田貴久弁護士
- 監修者の所属事務所
- 西川・太田法律事務所
成年後見人は、判断能力がほとんどない状態になった人の代わりに、財産を適切に管理し、本人のサポートをします。では、成年後見人になれる人とは、どんな人なのでしょうか。家族でもなれるのでしょうか。 この記事では、成年後見人になれる人や実際の選任状況、選任方法や変更ができるかどうかなどを解説します。
目次
成年後見人になれる人は誰? 家族でもなれる?
成年後見制度は「法定後見」と「任意後見」の2種類に分かれ、法定後見はさらに「成年後見」「保佐」「補助」の3種類に分かれます。成年後見人・保佐人・補助人は、家庭裁判所が適任者を選任する一方、任意後見人は本人が選び、あらかじめ任意後見契約を締結します。
成年後見人になるために、特別な資格は必要ありません。本人の家族であっても、成年後見人に選ばれることがあります。
ただし、欠格事由に該当する人は成年後見人になることができません。
成年後見人に資格は不要、家族でも選ばれる場合がある
成年後見人になるために、取得すべき資格は特にありません。
実際には司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家が選ばれるケースが多いですが、これらの資格は必須ではありません。本人の家族であっても、家庭裁判所に適任と判断されれば、成年後見人に選ばれることがあります。
欠格事由に当たる人は、成年後見人になれない
ただし、以下の欠格事由(民法847条)に該当する人は、成年後見人になることができません。
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
- 破産者
- 本人に対して訴訟をしている者または訴訟をした者、ならびにその配偶者および直系血族
- 行方の知れない者
成年後見人は誰が選ばれることが多い?
成年後見人には、親族が選任されるケースもありますが、それ以外の第三者が選任されるケースの方が多数となっています。
最高裁のデータによると、2022年に成年後見・保佐・補助が開始された事件のうち、親族が成年後見人等に選任されたケースは19.1%(7560件)にとどまる一方で、親族以外の者が選任されたケースが80.9%(3万2004件)にのぼっています。
親族の中では、子どもが成年後見人等に選任されるケースが53.4%(4037件)ともっとも多くなっています。
親族以外の者の中では、司法書士が36.8%(1万1764件)ともっとも多く、次いで弁護士が27.1%(8682件)、社会福祉士が18.3%(5849件)となっており、親族よりも専門家が選任されるケースが多いです。
出典:「成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―(最高裁判所事務総局家庭局)」
親族と専門家それぞれのメリット・デメリット
親族が成年後見人に就任することと、司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家(第三者)が成年後見人に就任することには、それぞれメリット・デメリットがあります。
実務上は、特に家族が成年後見人に就任することのデメリットが懸念された結果、家族以外の第三者が成年後見人に選任されるケースが多くなっています。
親族が成年後見人になるメリット・デメリット
親族が成年後見人に就任することの主なメリットは、成年後見人報酬を節約できる点です。
成年後見人は、家庭裁判所に対して相当の報酬を付与するように請求できます(民法862条)。成年後見人報酬は、本人の財産から支払わなければなりません。
専門家など第三者が成年後見人に就任する場合、報酬付与の申立てが行われた結果、例えば、大阪家庭裁判所では、月額2万円から6万円が標準的な報酬額のめやすとなっています(報酬基準は各地の家裁によって異なります)。
出典:「成年後見人等の報酬額のめやす」(大阪家庭裁判所、令和4年2月)
これに対して、親族が成年後見人に就任する場合は、金銭的な見返りを求めず、報酬付与の申立てを行わないケースが多いです。この場合、成年後見人報酬を支払わずに済むため、本人の経済的負担が軽減されます。
その一方で、本人の親族である成年後見人は、本人の財産を自己の財産と混同したり、勝手に使い込んだりするケースもあります。
成年後見人は、本人のために善良な管理者の注意をもって財産を管理しなければなりません(民法869条、644条)。
しかし、成年後見人が本人の親族である場合は、預かった資産と自分の資産とを分けて管理する意識が薄い場合があり、その結果、不適切な財産管理が行われてしまうことがあります。その結果、本人の利益が害されてしまうおそれがあります。
第三者が成年後見人になるメリット・デメリット
本人の親族ではない専門家が成年後見人に就任すれば、財産の混同や使い込みなど、親族が成年後見人になる場合のリスクを最小限に抑えられます。
司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家は、職業倫理に基づいて成年後見人としての職務を行います。また、親族も第三者である成年後見人の職務を厳しく監視する傾向にあるため、財産の混同や使い込みなどが行われるリスクは低いといえるでしょう。
その反面、親族以外の専門家が成年後見人に就任する際には、毎月成年後見人報酬を支払う必要があります。
報酬額の目安は、各地の家裁によって異なります。例えば、大阪家庭裁判所の場合、管理する財産の金額に応じて以下の目安額となっています。
成年後見人が管理する財産の額 | 成年後見人報酬の目安額(月額) |
---|---|
1000万円以下 | 2万円 |
1000万円超5000万円以下 | 3万円~4万円 |
5000万円超 | 5万円~6万円 |
出典:「成年後見人等の報酬額のめやす」(大阪家庭裁判所、令和4年2月)
成年後見人は家庭裁判所が選任する
成年後見人には、家庭裁判所が適任者と思われる人を選任します。後見開始の申立てを行う際に成年後見人の候補者を推薦できますが、推薦した候補者が必ず選ばれるとは限りません。
家庭裁判所が成年後見人を選ぶ際の判断基準
家庭裁判所が成年後見人を選ぶ際には、主に以下の要素を考慮します。
- 本人の心身の状態
- 本人の生活や財産の状況
- 成年後見人候補者の職業や経歴
- 本人との利害関係の有無
- 成年後見人候補者が法人の場合は、事業の種類や内容など
- 本人の意見
など
財産が比較的少額であり、親族関係に大きな問題がない場合には、親族が成年後見人に選ばれることも多いです。
これに対して、管理すべき財産が高額の場合や、親族関係についてトラブルが生じている場合には、親族ではない専門家が成年後見人に選ばれる傾向にあります。
成年後見人の候補者は推薦可能、ただし選ばれるとは限らない
家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる際には、成年後見人の候補者を推薦できます。
ただし、実際に成年後見人として選ばれるのは、家庭裁判所が適任であると判断した人です。申立ての際に本人などの推薦があったことは考慮要素の一つですが、家庭裁判所はそれだけでなく、さまざまな事情を総合的に考慮して成年後見人を選びます。
したがって、推薦した候補者が成年後見人に選ばれるとは限らない点にご注意ください。
成年後見人は変更できる?
成年後見人は、辞任または解任によって変更できる場合があります。
成年後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任できます(民法844条)。正当な理由として認められるのは、病気・高齢・遠隔地の転居などです。
辞任する成年後見人は遅滞なく、新たな成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法845条)。
また、成年後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所が成年後見人を解任できます(民法846条)。
「不正な行為」とは、後見人が被後見人の財産を横領するなど違法な行為または社会的にみて非難されるべき行為、「著しい不行跡」とは、品行がはなはだしく悪いことです。また、「その他その任務に適しない事由」とは、後見人の権限を濫用したり、不適当な方法で財産を管理したり、任務を怠ったりした場合です。
後見監督人・成年被後見人(本人)・本人の親族・検察官は解任の申立てができるほか、家庭裁判所の職権で成年後見人が解任されることもあります。
成年後見人が解任された場合は、成年被後見人(本人)・本人の親族・検察官の請求によりまたは職権で、家庭裁判所が新たな成年後見人を選任します(民法843条2項)。
まとめ
成年後見人には本人の家族も選ばれることがありますが、実際には8割程度のケースで、家族以外の専門家が成年後見人に選ばれています。
成年後見人は家庭裁判所が適任者を選任するので、家族が成年後見人になることを希望していても、そのとおりに選ばれるとは限りません。司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家が選任されることも想定しておきましょう。
- 監修者の名前
- 太田貴久弁護士
- 監修者の所属事務所
- 西川・太田法律事務所
札幌弁護士会所属。相続トラブルは親戚との間で発生します。親戚関係は事件解決後も続くことから、私は、将来を見据えた解決方法を探ることを心がけています。紛争が深刻化する前にお早めにご相談ください。
相続ガイド
生涯独身の「おひとりさま」が相続に向けてやっておくと良いこと7選、弁護士が徹底解説
生涯独身の「おひとりさま」が増えています。親族が誰もいない、もしくは疎遠になっている場合、自分が亡くなったあとの財産はどうなるのでしょうか。相続問題に詳しい田中伸顕弁護士に、おひとりさまが相続に向けてやっておくと良いことを聞きました。
「実家放置」の大きすぎる賠償リスク!4月から変わる相続登記のルール、注意すべきポイント
2024年4月1日に改正不動産登記法が施行され、相続登記が義務化されます。土地問題に詳しい荒井達也弁護士は「相続登記義務化をきっかけに、空き家などの不動産を放置したままにするリスクについて改めて考えてほしい」と話します。
相続や遺産分割の弁護士費用の相場はいくら?誰が払う?費用を抑える方法も解説
相続や遺産分割を弁護士に依頼した場合、費用がどのくらいかかるか不安な人もいるでしょう。この記事では、相続や遺産分割を依頼した場合の弁護士費用の内訳や相場を詳しく解説します。費用が払えない場合の対処法や弁護士の選び方についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
遺産を独り占めした人の末路は?そんなことできる?ケース別対処法を解説
相続する際、遺産を独り占めしたいと企む相続人も中にはいるでしょう。「遺産をすべて相続したい」と主張したり、遺産を隠したり使い込んだりするような場合です。また、「一人の相続人に全財産を譲る」という遺言が残されているケースもあります。このような場合でも、他の相続人には自身の相続分を主張する権利があります。この記事では、遺産の独り占めへの対処法を詳しく解説します。
寄与分とは?介護したらもらえる?認められる要件や相場、計算方法を解説
被相続人の生前に、介護や家業の手伝いなどの援助をしていた場合、相続する際に相続の取り分を増やしてほしいと考える相続人もいるでしょう。このようなケースでは、「寄与分」という形で相続分の増額を主張できる可能性があります。 寄与分が認められるのはどのような場合なのか、どの程度の増額が見込まれるのか、といった点について詳しく解説します。