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相続の相談は誰にすればいい?弁護士や税理士、司法書士ができる業務を解説
相続の相談は誰にすればいいのでしょうか。主な相談先としては弁護士・税理士・司法書士などが挙げられますが、それぞれ対応できる業務が異なります。ご自身の状況に適した専門家を選んで依頼しましょう。この記事では、相続について相談できる専門家の種類や各専門家が対応できる業務の内容などを解説します。
目次
相続について専門家に相談する必要はある?
家族が亡くなって相続が発生すると、残された家族同士で遺産を分け合うことになります。これまで家族の仲が良かった場合でも、相続において遺産を奪い合うような形となり、その関係性が壊れてしまうケースが少なくありません。
遺産額がそれほど多くないケースでも、相続トラブルは発生します。
遺産分割協議がまとまらずに家庭裁判所の調停へ発展した事例のうち、3割以上は遺産の価額が1,000万円以下です(令和4年度の司法統計では、遺産分割事件の認容・調停成立件数6915件のうち、2322件は遺産の価額が1,000万円以下)。
相続トラブルを防ぎ、家族の関係性を壊さないようにするためには、相続手続きを専門家に依頼するのがおすすめです。
また、相続手続きは非常に複雑であり、期限のある手続きもあるため、相続人が自分で対応するのは非常に大変です。2024年4月以降は相続登記が義務化されるなど、新たに対応すべき事柄も生じています。
漏れなく適切に相続手続きを進めるためには、専門家のサポートを受けるのが安心です。
相続について専門家に相談する前の準備
相続について専門家に依頼する際には、あらかじめ相続に関する事実関係などを整理しておきましょう。
具体的には、以下のような事項についてまとめましょう。これらの事項をあらかじめ整理しておけば、専門家へスムーズに相談できます。
- 相続人は誰か(家族構成はどうなっているか)
- 遺産の内容
- 被相続人が負っていた借金などの債務の内容
- 相続人間における話し合いの状況(まだ始まっていない、すでに揉めているなど)
- 具体的に懸念される問題(特別受益、寄与分、遺留分侵害、遺言無効、不動産の分割方法など)
- 希望する解決の内容
また、遺産や債務については、その内容を示す資料(不動産登記簿謄本、預貯金の入出金履歴、借金の契約書など)もあらかじめ準備しておくと、専門家への依頼後にスムーズに対応してもらえます。
相続はどの専門家に相談すべき?弁護士と他の専門家との違いは?
相続については、専門家である弁護士・税理士・司法書士や、金融機関などが相談を受け付けています。それぞれ対応可能な業務が異なるので、相続に関する事情に合わせて依頼先を選びましょう。
相続に関する相談先 | 主な対応業務 |
---|---|
弁護士 | ・遺産分割協議、調停、審判 ・遺留分侵害額請求 ・遺言書の作成サポート、保管、遺言執行 ・相続放棄の代理 ・その他相続手続き全般 |
税理士 | ・相続税の申告 ・所得税の準確定申告 ・生前の相続税対策 |
司法書士 | ・不動産の相続登記 ・遺言書の作成サポート、保管、遺言執行 ・相続放棄の書類作成(代理は不可) ・その他相続手続き全般(紛争性のないものに限る) |
金融機関 | ・遺言書の作成サポート、保管、遺言執行 ・各種専門家の紹介 ・資産運用のアドバイス |
弁護士
法律の専門家である弁護士は、相続に関する業務を全般的に取り扱うことができます。
特に相続トラブルの解決を取り扱うことができるのは、原則として弁護士のみです。遺産分割について他の相続人と揉めてしまった場合や、遺留分侵害が発生して問題になっている場合は、弁護士に解決を依頼するとよいでしょう。
税理士
税務の専門家である税理士は、相続についても税務面からサポートを行っています。
相続発生後の所得税の準確定申告や相続税の申告は、税理士に依頼するのがよいでしょう。また、生前の相続税対策についても、税理士に相談すればアドバイスを受けられます。
司法書士
弁護士に次ぐ法律の専門家である司法書士は、不動産の相続登記を中心に、相続に関する業務を幅広く取り扱っています。
司法書士は、紛争性のある相続案件を取り扱うことができません。その一方で、相続トラブルが発生していない事案については、司法書士に依頼すると、弁護士に依頼する場合よりも費用を抑えられることがあります。
金融機関
金融機関(銀行、信託銀行など)でも相続に関する相談を受け付けていますが、実際の相続手続きは相続人自身で行うか、または弁護士・税理士・司法書士などへ別途依頼する必要があります。
金融機関が提供している「遺言信託」のサービスを利用すると、遺言書の作成サポートに加えて、遺言書の保管や遺言執行を行ってもらえます。ただし、遺言信託の費用は高額となる場合が多く、さらに専門家への依頼費用は別途必要となる点にご注意ください。
相続について専門家に依頼する場合にかかる費用
相続について専門家に依頼する際の費用は、依頼内容や依頼先によって異なります。
弁護士・司法書士・税理士への依頼費用の目安を紹介しますが、あくまでも目安であることに留意し、実際の費用については個別にご確認ください。
相続に関する弁護士費用の目安
遺産分割・遺留分侵害額請求(着手金) | 経済的利益の額に応じて以下の金額(税込) 300万円以下の場合:経済的利益の8.8% 300万円を超え3,000万円以下の場合:経済的利益の5.5%+9万9,000円 3,000万円を超え3億円以下の場合:経済的利益の3.3%+75万9,000円 3億円を超える場合:経済的利益の2.2%+405万9,000円 |
遺産分割・遺留分侵害額請求(報酬金) | 経済的利益の額に応じて以下の金額(税込) 300万円以下の場合:経済的利益の17.6% 300万円を超え3,000万円以下の場合:経済的利益の11%+19万8,000円 3,000万円を超え3億円以下の場合:経済的利益の6.6%+151万8,000円 3億円を超える場合:経済的利益の4.4%+811万8,000円 |
遺言書の作成 | 11万円~22万円(税込) ※非定型的な内容である場合や、相続財産が多額である場合などには、弁護士費用がさらに高額となる傾向にあります。 |
相続放棄の代理 | 相続人1人当たり5万5,000円~11万円程度(税込) |
相続に関する税理士費用の目安
税務代理報酬(税務申告) | 基本報酬額11万円+遺産の総額に応じて以下の金額(税込) 5,000万円未満:22万円 7,000万円未満:38万5,000円 1億円未満:66万円 3億円未満:93万5,000円 5億円未満:121万円 7億円未満:148万5,000円 10億円未満:187万円 10億円以上:198万円 1億円増すごとに11万円を加算 |
税務書類の作成報酬(税務申告) | 税務代理報酬の50%相当額 |
生前の相続税対策 | 22万円~55万円程度(税込) |
相続に関する司法書士費用の目安
不動産の相続登記 | 5万5,000円程度~(税込) ※不動産の筆数や評価額などによって異なります。 |
相続手続き全般への対応(遺産整理) | 27万5,000円程度~(税込) ※依頼する事務の内容によって異なります。 |
遺言書の作成 | 11万円~22万円程度(税込) |
相続放棄の書類作成 | 相続人1人当たり3万3,000円~11万円程度(税込) |
相続について弁護士に相談すべきケース
遺産分割トラブルや遺留分に関するトラブルが発生した場合は、弁護士への依頼が必須となります。紛争解決を取り扱うことのできる専門家は、弁護士のみであるためです。
また、現時点ではトラブルが発生していないものの、将来的にトラブルの発生が懸念される場合も、当初から弁護士に相談すべきです。司法書士などに依頼してから相続トラブルが発生すると、弁護士への依頼に切り替えなければならず、二度手間になってしまいます。
弁護士費用はやや高額になる傾向にありますが、紛争解決を含めた相続手続き全般の対応を依頼できる点は大きなメリットです。安心して相続手続きを進めたい方は、弁護士への依頼を検討しましょう。
まとめ
相続に関する相談先としては、弁護士・税理士・司法書士や金融機関などが挙げられます。
その中でも弁護士は、相続トラブルの解決を取り扱える唯一の専門家です。弁護士には相続手続き全般の対応を依頼できるため、安心感をもって相続手続きを進められます。
遺産相続に関するお悩みがある方は、弁護士に相談してみましょう。
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