家族の絆を守る予防法務を重視〜信頼感と交渉力で相続トラブルの円満解決を目指す
兵庫県神戸市「ゆずりは綜合法律事務所」の中野宗一郎弁護士(兵庫県弁護士会所属)に相続分野の取り組みについて話を聞きました。家族の絆を大切にしたいという思いから、生前の対策を重視しているという中野弁護士。相続問題を扱う上で心がけていることや弁護士に相談することのメリットなどを聞きました。
インタビュー
「この先生なら大丈夫」と信頼される事務所を目指す
事務所設立の経緯を教えてください。
弁護士登録後、神戸市内の法律事務所に12年ほど勤務していました。6年目からはパートナーとして経営にも携わっていたのですが、40歳を過ぎた頃、自分自身の時間を確保し、より依頼者に寄り添った仕事がしたいという思いから、現在の事務所を開設しました。
以前の事務所には10名以上の弁護士が所属しており、パートナーとなってからは、他の弁護士への案件の配分や書面の確認など、マネジメント業務が増えていきました。その結果、自分が直接担当する事件に十分な時間をかけることが難しくなっていたのです。
法律事務所の経営者としての経験も貴重でしたが、弁護士として依頼者と直接向き合い、一つひとつの案件に真摯に取り組んでいきたい。そんな思いが強くなり、独立という道を選びました。
事務所の理念を教えてください。
弁護士事務所を訪れる方は、何かしらの悩みやトラブルを抱えているものです。私の目指すのは、そうした方々が相談を終えたときに、少しでも心が軽くなり、「来てよかった」と思ってもらえるような場を提供することです。
もちろん、相談だけで状況がすぐに変わるわけではありません。しかし、話をじっくり聞いて法的な視点から道筋を示すことで、依頼者は考えを整理し、今後どうすべきかを明確にすることができます。その結果、抱えていた不安が少しでも解消されればいいと思っています。
この考えに至ったのは、家族が手術を受けたときの経験がきっかけでした。執刀医の先生との最初の面談で、話し方や説明の仕方、表情など、すべてを通じて「この先生なら大丈夫だ」と直感的に信頼できたんです。
弁護士という職業も同じだと考えています。法律の専門家として、初めてお会いする方に対しても、まず安心感と信頼感を持っていただけるような存在でありたい。それが私の最も大切にしている理念です。
依頼者の話を傾聴して問題の本質を見極める
相続分野に注力しているのはどのような理由からですか。
相続は、単なる財産の分配ではなく、家族の問題です。本来であれば、親が築いた財産を子どもたちが何の不満もなく、全員が納得した形で円満に引き継ぐことが理想です。しかし、現実には相続をめぐってトラブルが生じることも少なくありません。
そのため、私は 「生前の対策」 を重視しています。遺言書の作成や家族信託の活用といった事前の準備を行うことで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。依頼者にこうした選択肢を提案し、円滑な相続をサポートしたいと考えています。
相続発生後のトラブルに関しても、適切な法的対応を行うことで、できるだけ家族間の対立を最小限に抑えられるよう努めています。
私自身、兄弟がいるので、家族の絆を大切にしたいという思いが強くあります。相続問題が原因で家族関係が壊れてしまうケースを数多く見てきたからこそ、そうならないようにサポートしたい。その思いが、相続分野に力を入れている理由です。
具体的にはどのような相談が寄せられますか。
生前の準備として多いのが、遺言書作成の相談です。財産を残すご本人が「子どもたちが揉めないように、今のうちに遺言を作りたい」と相談に来るケースもあれば、将来的に相続人となるご家族が「親に遺言を残してもらったほうがいいのでは」と相談に来ることもあります。
相続発生後の対応では、「遺言の内容に納得がいかないため、遺留分を請求したい」という相談があります。また、揉めているわけではないけれど、どのように遺産分割を進めればいいのかわからないという悩みを抱える方も多いです。
遺言書作成の相談を受けた際にはどのようなことを意識していますか。
財産を残されるご本人が内容を正確に理解しているかどうかという点を重視しています。
遺言はご本人の意思を反映するものですが、それによって将来、相続人同士で紛争が生じることもあります。ご本人の意思を尊重することは大切ですが、同時に、紛争に発展することを防ぐため、遺留分などのリスクについても丁寧に説明しています。
また、相談の際にはご本人だけでなく、家族が同席されることもあります。その場合でも、あくまで被相続人となる方の意思が正しく反映されているかを重視します。
相続が発生した後、一部の相続人から「遺言書が無効だ」と主張されるケースは少なくありません。そのようなケースでは被相続人に判断能力があったのかが争点になることが多く、場合によっては特定の相続人に言いくるめられていたのではないかと疑われることもあります。
そうしたトラブルを招かないためにも、遺言の内容が本当にご本人の意思に基づくものなのか、慎重に見極めるようにしています。
相続案件を手がける上で心がけていることはありますか。
問題の本質を見極めることです。例えば、遺産分割で行き詰まっているケースを見ると、実は相続人である兄弟姉妹自身に大きな対立がないにもかかわらず、話が進展しないということがよくあります。
そのようなケースでは、相続人の配偶者や家族の意見が状況を複雑にしていることが多いです。そのため、誰が問題解決のキーパーソンとなるのかを見極め、そこから問題を解きほぐしていくことを意識しています。
また、依頼者の話にはじっくりと耳を傾けています。相続は感情が絡む問題が多く、依頼者自身が感情的になってしまうこともあります。しかし、その感情の中に大切な情報が隠されていることがあります。その本質を理解し、把握することが極めて重要だと考えています。
ただし、依頼者の感情に寄り添いすぎることには注意を払っています。中には「費用は気にしないから、相手を懲らしめてほしい」と言う方もいますが、弁護士の役割は対立を激化させることではなく、問題を解決することです。そのため、合理的かつ建設的な対応を常に心がけ、依頼者にとって最善の道を探ることを大切にしています。
トラブルを未然に防ぐ生前の対策を重視
相続問題を弁護士に相談するメリットにはどのようなことがありますか。
大きく2つあると考えています。
1つ目は、感情的な対立を和らげる「クッション」としての役割です。当事者同士で直接話し合いを進めようとすると、どうしても感情的になりすぎて、建設的な話し合いができなくなってしまうことがあります。そこに弁護士が代理人として入ることで、冷静に話を進めることができるようになります。
2つ目は、問題を整理できることです。相続は非常に多くの論点が絡み合う分野です。例えば、遺産分割の問題では、寄与分や特別受益が関連しているということがよくあります。このような複雑な問題も、弁護士に相談することで整理され、適切な解決への道筋を見つけることができます。
相続分野における事務所の強みや特徴を教えてください。
交渉力が強みだと自負しています。相続問題では、どこに「落としどころ」を設定するかが非常に重要です。依頼者としっかり話し合いながら、最終的な解決の方向性を見据え、そこに至るための交渉戦略を緻密に組み立てています。
また、相続案件を適切に進めていくために、税理士や司法書士など他の専門家との連携も積極的に行っています。それぞれの専門分野の知見を活かすことで、より総合的なサポートを提供することができます。
さらに、私自身の年齢も特徴の一つかもしれません。相続人となる方々と同世代であることが多いため、法律的な観点だけでなく、共感的な理解を持って相談に応じることができます。依頼者の置かれている状況や心情をより深く理解し、寄り添った対応ができることも、私たちの事務所の強みだと考えています。
今後の展望を教えてください。
予防的な法務サービスの提供をより一層強化していきたいと考えています。相続に関する問題は、生前の適切な対策によって防ぐことができるケースが少なくありません。遺言書の作成支援はもちろん、家族信託など生前のサポートを充実させていきたいと考えています。
もちろん、相続発生後のトラブルについても、遺産分割調停や審判をはじめとして、遺産範囲確認訴訟、使途不明金訴訟、遺留分訴訟など紛争性の高い事案にもしっかり対応していきます。法的な知識の研鑽や実務経験の蓄積を通じて、より質の高い解決サービスを提供できるよう、日々精進を重ねていきたいと思います。
最後に、相続問題を抱えている方へメッセージをお願いします。
悩みを抱えている方の多くは、一人で考え込んでしまいがちです。しかし、悩んでいるだけでは問題は解決しません。むしろ、時間が経つほど状況がこじれたり、感情的な対立が深まってしまうことも少なくありません。
実際に依頼するかどうかは別としても、まずは一度、話を聞かせてください。相談することで新しい道が開けることはたくさんあります。早めに動くことで、円満な解決につながる可能性は大いにあります。お気軽にご相談ください。