依頼者の話を丁寧に聞き、相続人の対立の背景をしっかりと把握して交渉に対応
長野県上田市で「東信りんどう法律事務所」を経営する佐藤友則弁護士(長野県弁護士会所属)に、事務所の理念や、相続案件に携わる上で心がけていることなどを聞きました。弁護士だけでなく家庭裁判所の調停委員としても、多くの遺産分割調停に携わる佐藤弁護士。相続に関して、長野県ならではの地域的な特徴についても聞きました。
インタビュー
長野県の県花りんどうの花言葉「誠実」が事務所の理念
「東信りんどう法律事務所」という事務所名の由来を教えてください。
「東信」は、この地域である長野県の東部地方を指しています。そして「りんどう」は長野県の県花であり、花言葉は「正義」や「誠実」です。事務所の理念にぴったりな花だと思い、この名前を選びました。
事務所の理念や大切にしていることを教えてください。
りんどうの花言葉にもある通り、常に誠実に一件一件の案件に対応することを大切にしています。
具体的には、依頼者のお話を丁寧にお聞きすることを心掛けています。また、取り扱い件数が増えても、一件一件の解決が遅れのないように、それぞれ適切な時期に対応するよう心掛けています。
相続案件に注力している理由を教えてください。
相続案件は相続人同士の感情の対立が激しくなることが多い分野です。弁護士が間に入ることで、対立を完全になくすことは難しいかもしれませんが、進展のなかった問題が前へ進むようにするサポートができればと思い、相続に注力しています。
家庭裁判所の調停委員として遺産分割調停なども担当されているそうですね。調停委員の経験が弁護士活動にどのように活かされていますか。
家庭裁判所の調停委員になり4年が経ちました。調停委員として裁判所の立場から遺産分割調停などに携わるようになり、裁判所の視点や考え方をより理解できるようになりました。
調停委員としての役割で弁護士と異なると感じる点は、当事者の合意を成立させるために話をまとめるという意識が強まることです。弁護士は依頼者の利益を1番に考えて主張を行いますが、調停委員は、双方の主張を調整して合意を成立させることが役割として求められます。
このような経験を通じて、依頼者に対して調停に関する説明を以前よりもスムーズに行えるようになりました。手続きの詳しい流れについてもそうですし、調停を申し立てた場合に裁判所が提示する調停案を予想して、合意に向けた見通しを立てやすくなりました。
相続人同士の話し合いが進まない場合には調停を申し立てることで早期解決に繋がる
相続について、よくある相談内容を教えてください。
簡単なものでいうと、相続放棄をしたいという相談が多いです。
相続放棄をするかどうか迷っている方もいれば、相続放棄の手続きのやり方を教えてほしいという方もいます。
最近はインターネットが発達しているので、ある程度の知識を持っている方もいますが、全くわからない方もまだまだ多いです。そのため、「自分で手続きを行う場合には、裁判所でこのようにすればよいですよ」と丁寧にお伝えします。
相続放棄の手続きを理解できたとしても、自分で戸籍を集めるのが大変なので弁護士に手続きをお願いしたいという方もいます。
遺産分割についての相談はありますか。
はい。遺産分割の相談では、話し合いがまとまらないというケースが多いです。
話し合いがまとまらない理由としては、生前に親の面倒を見たかどうかで意見が対立することが多いです。「自分が親の面倒を見たのに、この額では納得できない」「あなたは全然面倒を見ていなかったのに、遺産をもらうつもりですか」といった具合です。
また、元々相続人同士の仲が悪い場合や、長い間疎遠になっている場合には、最初から話が全く進まないケースもあります。被相続人に離婚歴がある場合には、腹違いの兄弟が相続人になる場合もあり、連絡しづらいので依頼したいというケースもあります。
遺産分割の話し合いがまとまらないケースでは、解決に向けてどのように進めていくのでしょうか。
まずは依頼者の意向を聞いて、法的な主張が可能かどうかを検討します。例えば、法定相続分の通りに分けられればよいのか、それとも先ほどの話のように、親の面倒を見た分を寄与分として主張したいのか、様々なやり方があります。法的な主張を整理した上で、それを相手方に伝えます。相手方から反論がくる場合には、話し合いでどこまでお互いの距離を縮められるのかを探っていきます。
話し合いで解決が見込めるケースでは、だいたい数ヶ月以内に合意できることが多いです。それ以上経過すると、話し合いは難しいだろうと判断して、調停の申立てを検討します。
調停では、調停委員という第三者が間に入ることで、より客観的な話し合いが可能になります。私は依頼者の代理人なので、相手方の主張を受け入れるには限界があります。調停委員という第三者に依頼者と相手方の双方の意見をまとめてもらうことで、早期解決に繋がると考えています。
相続に関して、長野県ならではの地域性や特徴はありますか。
長野県では、遺産に山林や農地があることが多く、それを相続したくないという方が多いです。こういった不動産は価値が低く、なかなか売却できません。相続しても固定資産税がかかるため、負担となってしまうことがあります。これは長野県ならではの特徴かもしれません。
山林や農地は基本的には売却できないので、相続人の誰かが引き取るしかありません。その負担分を、他の遺産を多めに分けるなどして調整しています。
依頼者の話を丁寧に聞き、相続人の対立の背景をしっかりと把握して交渉に対応
相続案件を手掛ける上で心がけていることを教えてください。
まず、依頼者の話を丁寧に聞くことを心がけています。依頼者の話を聞いて、相続人が対立するきっかけとなった出来事や経緯をしっかりと把握することが大切です。
依頼者から事前にそのような話を聞いておかないと、交渉の中で相手方から対立の経緯を初めて聞かされることになります。そうすると、相手方の話が本当かを依頼者に改めて確認しなければなりませんし、こちらの法的主張の前提条件が変わってくる可能性もあります。その辺りの話を事前に依頼者からしっかりと聞いておくことで、相手方の反論にも冷静に対応できるようになります。
また、遺産に漏れがないように、依頼者の話を聞くだけでなく、遺産が実際にあるかどうかの調査をしっかり行うことも大切です。
遺産を調査してみると、依頼者の話と実際の状態が異なることがあります。例えば、金融機関に照会をかけたら他にも口座が見つかったり、古い通帳の記載金額が実際とは異なったりすることがあります。遺産に漏れがあって遺産分割をやり直すことは避けたいので、できる限りしっかり調べて、遺産の額を確定した上で話し合いを進めたいと考えています。
相続について弁護士に依頼するメリットを教えてください。
弁護士に依頼するメリットとして、協議がスムーズに進むことが挙げられます。弁護士が間に入ることで、相続人だけで話し合うよりも話を進めやすくなります。また、協議、調停と手続きを進めて話がまとまらなかったとしても、最終的に審判という手続きで、裁判官が判決のように結論を出すので、必ず解決に至ります。
また、戸籍を全て集める作業は大変ですが、弁護士に依頼すれば、弁護士の職務上請求によって全ての戸籍を取り寄せることができます。この点でも弁護士に依頼するメリットは大きいと思います。
早めに弁護士に相談した方がよい理由を教えてください。
相続手続きを行わないうちに相続人が亡くなってしまうと、相続権が下の代に移って相続人の数が増えてしまいます。関係が薄かったり、面識のない相続人が増えると、話し合いが一層難しくなります。できる限り自分の代で解決するためにも、早めにご相談いただくことが大切です。
また、不動産の相続登記が2024年4月から義務化され、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならなくなりました。この点でも早めに弁護士に相談した方がよいと思います。
話し合いが進まないからと放置せずに、早めに弁護士に相談を
これまで取り組んできた相続案件の中で、印象に残っているものはありますか。
特定の案件というわけではありませんが、長い時間をかけて最終的に解決できた案件が印象に残っています。
通常、交渉や協議で解決する場合は数ヶ月で終わることが多いです。しかし、協議がまとまらず調停になると、1年以上かかることもあります。案件が長引く理由は、こちらの提案する遺産分割案と相手方が考える遺産分割案が大きく異なるからです。
例えば、不動産が絡む案件では、誰が不動産を取得するのか、不動産以外の預金などの遺産をどのように分けるのかについて、意見の違いが出てきます。このような場合、双方の意見をすり合わせるのに時間がかかります。お互いに「この遺産は必ず欲しい」といった譲れない条件があるため、それ以外の優先順位の低いところから少しずつすり合わせていきます。どうしても欲しい遺産が重なってしまった場合は、お金で解決する方法を考えることもあります。
当初、話がまとまるかどうか心配した案件でも、このような過程を経て最終的に調停がまとまったときには本当にほっとしますし、無事に終わってよかったと思います。
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
まず、ご本人がお元気なうちであれば、遺言書を作成しておくことが大切です。ただし、遺言書の内容は、相続争いを避けるために、相続人が仲良く分けられる内容にすることが重要です。遺言書の文案作成も弁護士がサポートできますので、ぜひご相談ください。
ご本人が亡くなった後に遺言書がない場合や、遺産分割で争いになってしまった場合、当事者同士では話し合いが進まないこともあります。そういったときは、速やかに弁護士にご相談ください。相続を長年放置してしまうと、相続人の数が増えたり遺産がわからなくなったりして、対応が大変になります。話し合いが進まない場合でも長期間放置するのではなく、早めに弁護士に相談することをお勧めします。