20年超の経験を活かして相続トラブルの早期解決を支援〜依頼者が納得できる解決を目指す

神奈川県川崎市「ほづみ法律事務所」の穂積匡史弁護士(神奈川県弁護士会所属)に相続分野の取り組みについて話を聞きました。20年超の実績と家事調停委員としての経験が強みという穂積弁護士。調停委員の経験がどのように活かされているのかや、相続問題に取り組む上で心がけていることなどを聞きました。
インタビュー
弱い立場の人の力になりたい
事務所設立の経緯を教えてください。
2004年に弁護士登録をしました。川崎での6年間、武蔵小杉で7年間を経て、2017年に新百合ヶ丘駅前で現在の事務所を立ち上げました。
1人で事務所を運営することは挑戦ではありましたが、これまでの経験を活かし、依頼者の皆様により良いリーガルサービスを提供できるよう日々努めています。
事務所の理念を教えてください。
弁護士を目指したきっかけは、一言で言い表すのが難しいのですが、労働運動に取り組む父親とジェンダー問題に取り組む母親の姿を見て育ったこと、そして、自分自身の民間企業で働いていた頃の経験が大きいと思います。
社会には、さまざまな理由で厳しい立場に置かれたり、弱い立場に追い込まれてしまう人がいます。これまで不自由なく、強い立場、有利な立場で生きてきた自分は、そうでない方々の力になる仕事をしなければならないという思いが強まり、弁護士への転身を決めました。
そのような出自と信念が手伝っているのか、弁護士として活動を始めてからは、労働事件では労働者側、離婚事件では女性側のサポートを中心に仕事をしてきました。社会では、生まれ持った環境や育った環境によって、人生がある程度規定されてしまいます。そのような中で、困難な状況に置かれている方を支援することは、弁護士としての基本的な使命だと考えています。
相続分野に注力しているのはどのような理由からですか。
新百合ヶ丘で事務所を開設してから、相続に関する相談を受けることが増えました。この地域には資産を所有している方が多く、それが相談件数の増加の背景にあるように感じます。
さらに、2022年から家庭裁判所で家事調停委員を務めるようになり、遺産分割調停に携わる機会も増えました。調停を申し立てる方の中には、弁護士に依頼せずにご自身で対応しているケースも少なくありません。そのような場面で「弁護士がサポートすれば、もっと合理的かつスピーディーに解決できるのに」と感じることが多々ありました。
そうした経験から、一般の方々に弁護士をもっと身近に感じてもらい、相続問題をよりスムーズに解決していただきたいという思いが強まり、力を入れるようになりました。
依頼者への共感と法律家としての冷静な判断が大事
どのような相談が寄せられますか。
大きく分けて2つあります。1つは遺言書の作成、もう1つは遺産分割で問題を抱えているケースです。
遺産分割がまとまらないケースには、いくつかの典型的なパターンがあります。例えば、数次相続や代襲相続により相続人の数が多くなってしまったケースや、相続人の中に連絡が取れない人がいるケースです。
また、相続人同士の主張が対立するケースも少なくありません。親の介護をしてきた人が寄与分を主張したり、他の相続人が親から生前贈与を受けていたと主張するケースです。
法的な根拠を見つけにくい主張によって話がまとまらないケースもあります。例えば「長男だから多く相続すべき」といった主張です。現行の相続法では、そのような考え方は採用されていませんが、こうした価値観の違いがトラブルの要因になることもあります。
遺産分割トラブルはどのように解決するのですか。
まず依頼者の話をじっくり聞き、依頼者側はもちろん、相手側の状況もしっかり把握するよう努めています。調停委員になってから感じるのは、「自分の苦労は覚えていても、相手の苦労には気づきにくい」ということです。そのため、依頼者の話を丁寧に聞きながら、相手に(ときには依頼者にも)誤解や行き違いがあれば、それを解消することが大切だと思っています。
また、相続問題には世代間やジェンダーによる価値観の違いが大きく影響することがあります。「長男だから」「嫁に行ったから」といった旧来の家制度に基づく考え方は、憲法の理念や現代の法律とは相容れません。
依頼者や相手方がそのような考え方に縛られている場合は、社会や法律がどのように変わったかを丁寧に説明し、理解してもらった上で、どのように対立を乗り越えて行けるかを一緒に考えるように努めています。
問題解決において、交渉と調停のどちらを重要視していますか。
基本的に調停を積極的に活用するべきだと考えています。調停委員が間に入ることで、当事者同士の認識のギャップを埋めやすくなるからです。
依頼者は弁護士から指摘されると「なぜ自分が依頼している立場なのに、そんなことを言われるんだ」と感情的になってしまうことがあります。そして、それは当然の感情です。その一方で、調停委員という第三者から同じことを言われると、冷静に受け止められるケースが多いと感じます。
交渉による解決を目指すケースでは、1年、2年と時間がかかり、それでも平行線のまま進展が見られないことがあります。それよりも、調停を活用して合理的かつ法に則った解決を早期に図る方が、結果として依頼者の利益になると考えています。
相続案件を手がける上で心がけていることを教えてください。
依頼者の話に真摯に耳を傾け、その思いに共感することを心がけています。相続問題は単なる財産の分け方の問題ではなく、長年の家族関係や感情が複雑に絡み合っているケースがほとんどです。そのため、依頼者の心情を深く理解することが、適切な解決への第一歩となります。
しかし同時に、弁護士として一定の距離感を保つことも重要だと考えています。依頼者と完全に一体化してしまうと、冷静な判断が困難になり、かえって適切な解決から遠ざかってしまう可能性があります。それは結果的に依頼者の利益にも反します。そのため、共感しつつも客観的な視点を失わないよう、意識的にバランスを取るようにしています。
また、依頼者の納得感を重視しています。法的に正しい解決策であっても、依頼者が納得できないままでは、真の意味での問題解決とはいえません。方針の決定や進め方については、依頼者に丁寧に説明しながら、納得を得ることを心がけています。
家事調停委員の経験が強み
相続問題を弁護士に相談するメリットにはどのようなことがありますか。
法的根拠に基づいた解決が可能になることです。
感情的な対立や家族関係の複雑さから、相続問題は当事者だけでは適切な判断が難しくなりがちです。しかし、弁護士が関わることで、法律という客観的な根拠に基づいた冷静かつ合理的な解決が可能になります。
弁護士は感情に流されることなく、客観的な判断をもとに依頼者をサポートし、最善の方法で問題解決に導く役割を担っています。法律の裏付けをもとに一つひとつ整理しながら進めることで、依頼者にとっても納得感のある結果を得ることができます。
印象に残っている案件を教えてください。
若干デフォルメしてご紹介します。兄弟間で寄与分を巡って争った相続トラブルがありました。兄が「親の世話をしてきた」と寄与分を主張したのに対し、弟が激しく反対し、互いに譲らず調停にまで発展しました。
調停でも話し合いは平行線をたどり、なかなか進展が見られずにいたのですが、調停委員の提案で、兄が管理していた通帳を弟に見せることになったんです。その通帳には、兄がこれまで親のために行ってきた支援や費用負担の記録が細かく残されていました。
兄の側では、これを見せれば弟から「こっちの引出はなんだ? そっちの引出はなんだ?」と難癖をつけられて嫌な思いをすることになるし、かえって解決が遠ざかると考えて、それまで開示を控えていたのです。
すると弟は、その通帳を見て「自分の知らないところで、ここまでやってくれていたのか」と気づき、納得してくれたのです。
一方、弟が理解を示し、ねぎらいの言葉をかけてくれたことで、兄も「わかってくれただけで十分」と柔軟な姿勢を見せました。その結果、互いの誤解が解け、スムーズに遺産分割が進んだのです。
この案件を通じて、相続問題において相手の立場を理解することの難しさと同時に大切さを改めて実感させられました。
相続分野における事務所の強みや特徴を教えてください。
家庭裁判所の家事調停委員としての経験を活かし、より実務的な視点で相続問題に対応できる点です。調停委員として多くの案件に携わったことで、裁判所側の視点に立って物事を見る目を養うことができました。
その経験を踏まえ、書面の作成方法や証拠の出し方も以前とは大きく変わりました。裁判所が何を気にして、どのような判断をするかを意識しながら準備を進めることで、依頼者にとっても有益な解決策を提案しやすくなっています。
また、調停委員として他の弁護士の活動を見る機会が多いことも、貴重な学びとなっています。「こういうやり方もあるんだ」と新たな知見を得ることができ、弁護士としての幅を広げることができました。
さらに、調停で扱う案件は非常に多様で、複雑なものも少なくありません。普段弁護士として受任する案件には紛争性の少ないものもありますが、調停で関わる案件は解決が難航し、深刻な対立があるものがほとんどです。そうした経験は、より難しい問題に対処する力を養ってくれました。
これらの経験を通じて、相続紛争の解決に必要なポイントを日々学び、依頼者に対して最善のサポートを提供できるよう努めています。
最後に、相続トラブルを抱えている方へメッセージをお願いいたします。
弁護士を積極的に活用してほしいと思います。調停委員をしていて感じるのは、弁護士をつけずに対応した結果、泥沼化してしまうケースが非常に多いということです。話し合いが長引き、膨大な時間と労力、さらには大きなストレスを抱え込んでしまう方が少なくありません。
その点、弁護士に早い段階で相談していただければ、依頼者の負担を減らし、結果的に様々なコストやリスクを抑えられるケースが多いと感じます。弁護士費用は確かにかかりますが、迅速で合理的な解決を得られるメリットは、弁護士費用の負担を上回る場合がほとんどだと思います。
また、相続問題は事前に対応できることが多い分野です。遺言書を作成したり、寄与分を主張するための証拠を早めに準備したりと、事前に打てる手はいくつもあります。
相続に関して少しでも気になることがあれば、気軽にご相談ください。一歩を踏み出すことで、きっと良い解決策が見つかるはずです。