相続の基本的な事実を丁寧に確認し、個別のケースに応じた手続きを適切に進める
宮城県仙台市で「小野法律事務所」を経営する小野純一郎弁護士(仙台弁護士会所属)に、事務所設立の経緯や、相続案件に携わる上で心がけていることなどを伺いました。相続に関する基本的な事実を確認していく中で、思わぬことが判明することがあると語る小野弁護士。相続について弁護士に相談・依頼するメリットについても詳しく聞きました。
インタビュー
父が開業した法律事務所を引き継ぎ、地域に根ざした法律相談を行う
事務所設立の経緯を教えてください。
もともとは父が開業した法律事務所でした。父は検察官をしていましたが、私が小学生の頃に退官し、故郷である仙台に戻って弁護士として法律事務所を開業しました。
私は1988年に司法試験に合格し、1991年4月から弁護士として働き始めました。最初は、父の同級生の弁護士の事務所で15年間弁護士として活動し、その後父の事務所で経営に携わるようになりました。父が亡くなった後、私が所長として事務所を引き継ぎ、現在に至ります。
相続案件に注力している理由を教えてください。
日本は超高齢社会となり、65歳以上の人口が約30%に達するという状況になっていて、私自身もその年代に差し掛かり、自然と相続について意識するようになってきました。
また、依頼者も同世代やそれ以上の方が増えてきたため、自然と相続に関する相談を受ける機会が多くなってきて、注力するようになりました。
相続について、よくある相談内容を教えてください。
大きく2つの相談内容があります。1つ目は、遺産分割です。
従来は、遺産分割で揉めていたり、意見が合わなかったり、トラブルになってからの相談が多かったのですが、最近では、とくに相続人間で揉めていない場合でも、手続きの代行として弁護士に遺産分割をまとめてもらいたいという相談が増えています。
2つ目は、遺言作成など、将来の相続に備えた準備に関する相談です。ご自身の亡くなった後に、相続人、特に子どもたちの間で紛争が起こることを避けたいという思いから、財産の分け方を事前に決めておきたいと考えている方が多いです。
依頼者の反応を見ながら、一人ひとりに合わせてわかりやすく、適切な説明を行う
相続案件を手掛ける上で心がけていることを教えてください。
依頼者にご自身の権利や義務についてわかりやすく説明し、理解してもらえるよう心がけています。また、手続きの流れについても、どのような手順を踏むのかを明確に説明するよう努めています。
私は東北学院大学法科大学院で実務家教員も務めたことがあり、法的な知識をわかりやすく伝えることはまったく苦になりません。法律相談の際には、相談者の反応を見ながら、どこまで理解しているか、あるいは誤解している可能性がないかを見極め、その方にとって適切な説明を行うよう心がけています。
相続について弁護士に依頼するメリットを教えてください。
一口に相続と言っても、進め方には様々なバリエーションがあります。相続手続きを適切に進めるには、遺言の有無やその内容、法定相続人、相続財産などを一つ一つ確認することが必要です。
こうした確認作業の中で、思いがけない事実が見つかることもあります。例えば、戸籍謄本を取り寄せた際に、亡くなった方が以前にも結婚していて、前妻との間に子どもがいることが判明したケースがありました。この場合、その子どもにも相続権があるため、遺産分割の方法を考え直す必要が出てきます。
このような事実は当事者だけでは把握しにくいことが多いため、弁護士に相談してしっかりと確認することが大切です。それぞれの状況に応じた適切な手続きを進められることが、弁護士に依頼するメリットだと言えます。
早めに弁護士に相談した方がよい理由を教えてください。
手続き的にミスが起きないことと、期限がある手続きに迅速に対応できることが上げられます。
たとえば、遺産の一部である預金を使うと、「相続することを認めた」ことにあたるとして、相続放棄ができなくなってしまいます。弁護士がはやめに入れば、こうした点も早期に把握し、「相続放棄を検討しているなら、遺産に手をつけないように」とアドバイスできます。
また、遺言によって不当に取り分が少なくされている相続人は遺留分侵害額を請求できますが、請求できるのは相続開始後1年間に限定されています。
1年という期間は長いように見えて、遺留分侵害額を請求するための証拠集めなど必要な準備を適切に進めないと、あっという間に時間がすぎてしまいます。
こうした手続に迅速に対応するためには、弁護士に早期に相談することが重要です。
先生の事務所ならではの強みを教えてください。
当事務所には私のほかに、経験豊富な弁護士が2人在籍しています。1人は弁護士歴約15年、もう1人は約10年で、世代も幅広く、老壮青のバランスが取れています。それぞれが得意分野を持っており、難しい案件については弁護士同士が協議しながら進められる体制になっています。
また、懇意にしている司法書士がいますので、最終的な不動産の移転登記などはその方に依頼し、スムーズな連携を図っています。
現状を弁護士に確認してもらうだけでも相談する意味がある
初回相談の流れを教えてください。
初回相談では、まずは基本的な前提情報を伺い、それに基づいてさらに詳しい情報を伺っていきます。
具体的には、亡くなった方の日付や、配偶者や子どもがいたかどうかなどを確認し、法定相続人を確定していきます。さらに、遺言があったかどうかを確認し、あった場合は作成時期や内容についても伺います。
また、相談の際には、関係がありそうな資料をできるだけ持参していただくようお願いしています。お話を伺いながら、客観的な書類も確認し、記憶だけに頼らず事実を確定することが大切です。
過去には、不動産の所有者についての相談者の認識が、登記簿上の名義と異なっていたこともありました。不動産であれば登記簿謄本、預金であれば通帳などの資料を持参していただくことで、正確な情報を基に相談を進めることを大切にしています。
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
相続が発生した後、何をすべきかわからないという場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。時間が経過することで、手遅れになってしまうこともあるため、まずは専門家の意見を聞くことが大切です。
実際に私が対応したケースでは、相続放棄をすることで多額の債務を負わずに済んだ方がいました。その方は「親の借金は子供が返さなければならない」と思い込んでいましたが、弁護士への相談によって相続放棄の手続きを行い、問題を解決できました。
また、相続がまだ発生していない段階でも、事前に対策を講じることで将来のトラブルを回避できる可能性が高まります。例えば、特定の相続人に遺産のほとんどを譲る遺言を作成する場合には、将来的に遺留分をめぐって紛争になる可能性があります。
しかし、事情を伺うと、実は遺産の取り分が少ない相続人にはすでに生前贈与をしていたことが判明する場合があります。そのような事情がわかれば、生前贈与のことを遺言に書き添えたらどうですかとアドバイスすることができます。このような一言で将来の紛争を防ぐことができるのです。
現在大きなトラブルがなかったとしても、状況を弁護士に確認してもらうだけでも相談する意味があると思います。まずはお気軽にご相談ください。