相続問題は「感情」を大切に、依頼者が納得できる解決を〜須高地域に根ざした身近な法律事務所
長野県須坂市「法律事務所MAIMEN」の藤原寛史弁護士(長野県弁護士会所属)に、相続分野への取組みについて聞きました。「相続は、法律の理屈を当てはめても解決し難い、最たる事例」と話す藤原弁護士。依頼者の感情や他の相続人との関係性などにも注目し、納得して前へ進める解決策を探ることを大切にしています。相続についてよくある相談や、弁護士に相談するメリットなども詳しく伺いました。
インタビュー
法律事務所がない地域に法的サービスを届けたい
弁護士を志したきっかけ、事務所設立の経緯について教えてください。
中学生の頃にドラマの影響で弁護士に興味を持ち、漠然としたあこがれを抱いて法学部に進学しました。本気で弁護士を目指そうと決めたのは大学3年生のときです。弁護士過疎地域である北海道紋別市に単身乗り込んだ当時20代の女性弁護士の活動を取材した本との出会いがきっかけでした。弁護士過疎地域で奮闘する様子に感銘を受け、「自分がやりたいことはこれだ」と思い、法科大学院への進学を決めました。
法科大学院で学んでいる間も、「司法アクセスが十分でない地域の方々の役に立ちたい」という思いは変わらずに持ち続けていました。在学中から友人たちと一緒に事務所を立ち上げようと話していて、候補地となったのが長野県須坂市でした。
須坂市と隣接する上高井郡の小布施町、高山村を総称して須高地域といいます。この地域には人口が7万人ほどいるにもかかわらず、法律事務所が一軒もありませんでした。司法サービスが十分に行き届いていない須高地域の方の役に立ちたい。その思いを胸に、誰も地縁がない中で2009年に事務所が設立されました。
「法律事務所MAIMEN」という事務所名の由来はありますか。
英語の「my man」(親密な間柄の人を指す言葉)からきています。友人と立ち上げた事務所ということと、地域の方からも親しい存在と思ってもらえるようにとの思いを込めました。
「man」を複数形の「men」に、「いつも」という意味の「毎」をローマ字表記にし、「my」とかけて「mai」として造語にしました。
法律事務所がなかった地域ということもあって、1年目から多数の相談が寄せられ、開業して15年目を迎える今も様々な案件の解決に奔走する日々を送っています。
依頼者の思いを受け止めて、最適な解決をともに考える
相続について、どのような相談が多く寄せられますか。
多いのは、遺産分割と相続放棄に関する相談です。
遺産分割は、当事者間で話し合ったものの折合いがつかず、すでにトラブルになっている状態で相談に来る方が多いです。
相談を受けたら、まずは背景を聞きます。「他の相続人の方との関係性はどうだったんですか」「親御さんの介護をめぐってどういったことがあったんですか」といった質問をして、これまでの経緯を詳しく聞いていきます。
相続のトラブルは、相続が発生する前の関係性や出来事に端を発していることが多いです。例えば、「他の兄弟よりも取り分を多くしたい」という主張は、元をただせばそもそもの関係性にしこりがあり、「相手に得をさせたくない」「自分の方が親に尽くしたのだから報われるべき」などの感情が具現化したもの、というケースがよくあります。
トラブルが起きるまでの背景をヒアリングする中で、紛争の着地点や解決の方向性を探っていきます。
相続は、「法律ではこう決まっているから」と理屈を振りかざしても解決し難い、最たる事例だと思います。もちろん、離婚など他の事例についてもそういう部分はありますが、相続は特に、当事者の感情が、解決をする上での重要なポイントだと感じます。
法律を形式的に当てはめるだけではなく、依頼者の希望や思いをしっかりと受け止めて、最適な解決策を一緒に考えることを大切にしています。
相続放棄についてはどのような相談が寄せられますか。
典型的なのは、「被相続人の借金を引き継ぎたくないので放棄したい」「被相続人とほぼ関わりがないので、プラスの財産があってもなくても相続したくない」という相談です。借金は、相続が始まった時点でわかっているケースもあれば、しばらく経って消費者金融などから請求書が届いて知るケースもあります。
相続放棄の手続きには期限(相続の開始があったことを知った時から3か月以内)があり、期限内に相談に来た方には、自分で手続きすることをお勧めしています。そこまで複雑な手続きではないですし、自分で行えば弁護士費用もかかりません。その場合の手続きの流れや注意点はアドバイスしますのでご安心ください。
もちろん、自分で戸籍等の書類を集めることが難しい、不安、という方からご希望があれば受任もしています。
案件として受任することが多いのは、相談時点で上記の期限を過ぎているケースです。たとえば、被相続人がお亡くなりになって3か月以上が経過してから借入れが判明したり、自治体から被相続人の税金の滞納について通知が届くなどして、「今からでも放棄することはできるか」というご相談です。
このような場合に相続放棄をするには、上記の期限を過ぎた理由を裁判所に説明する必要があります。一般の方が対応するにはハードルが高い場合があるので、受任をして、相続放棄を認めてもらえるようにサポートしています。
正しい知識を持って、紛争化する前に適切な対応を
相続について弁護士に相談するメリットを教えてください。
多数の案件を解決した知識と経験に基づく、的確なアドバイスを受けられることです。例えば、争いになりやすいポイントを予見して回避する方法を提案したり、すでに紛争化しているケースについては、解決に向けた的確な選択肢をお伝えすることが可能です。
多くの方が、相続人同士で話し合って揉めた後に相談に来ますが、できれば「これから話し合う」という段階で一度相談に来ていただくことをお勧めします。相談にいらした方の意向を聞いた上で、どういうふうに話合いを進めればいいのかをアドバイスできます。
相続に関する正しい知識を持たない状態でお互いが思うがままに意見をぶつけ合うと、着地点を見い出せず、対立してしまう可能性があります。対立状態が長引き、溝が深まった後では、弁護士が入っても解決に時間がかかります。そうなる前に専門家のアドバイスを聞きに来てもらえればと思います。
事務所ならではの強みや、他の事務所との違いを教えてください。
須高地域初の法律事務所として開設して15年、地域密着で皆様の相談・依頼に対応してきました。不動産の相場感を含め、この土地ならではの事情にも精通していると自負しています。
また、地元の司法書士や税理士などの士業の方々との繋がりもありますので、登記や税務に関する手続きをスムーズに行うことができるようサポートもできます。
最後に、相談や依頼を検討している方へのメッセージをお願いします。
法律的な疑問だけでなく、感情的なすれ違いで悩まれた場合でも、ぜひご相談いただきたいです。納得して前を向けるような解決方法をともに考えていけたらと思っています。