相続登記など煩雑な手続きにも柔軟に対応。依頼者の「こだわり」に寄り添った最適な解決策を提案
東京都新宿区「東京山手法律事務所」の野間啓弁護士(第一東京弁護士会所属)に相続分野の取り組みについて話を聞きました。自身が相続を経験した際に、手続きの煩雑さを痛感したことから相続分野に注力するようになったという野間弁護士。経験者だからこそわかる相続手続きの大変さや弁護士に相談するメリットなどを聞きました。
インタビュー
東日本大震災をきっかけに事務所運営の概念が変わった
事務所を設立した経緯を教えてください。
弁護士登録後、最初の5年間を新宿の法律事務所で過ごし、その後独立して四谷に事務所を構えました。当時は独立開業するのが弁護士の自然な流れで、いずれは独立しようと考えていました。
その後、約12年にわたって個人で事務所を運営していましたが、2011年の東日本大震災をきっかけに、事務所運営に関する考え方が変わりました。震災の際、事務所に行くことができない状況が続き、事務局機能も停止してしまいました。この経験から、1人で事務所を運営することのリスクを痛感したのです。
そこで、当時私が事務局長を務めた弁護団のメンバーに声をかけ、2012年9月に現在の事務所を設立しました。弁護士の人数を増やすことで、有事の際でも依頼者の皆様のニーズに確実に応えられる、より強固な体制を築きたかったのです。
事務所の理念を教えてください。
「わかりやすく丁寧な説明」と「迅速なレスポンス」です。これは、私が若手弁護士として働いていた頃から、法曹界の課題として感じていたことです。
弁護士は往々にして専門用語を多用し、依頼者の方々にとって理解しづらい説明をしがちです。また、弁護士は1人で複数の案件を抱えて時間に追われ、連絡や対応が遅くなりがちな傾向があります。
こうした弁護士業界の悪い風習を変えたいという思いもあり、依頼者への丁寧な説明と迅速な対応を常に意識して仕事に取り組んでいます。
経験から痛感した相続手続きの複雑さ
相続分野に注力している理由を教えてください。
私自身の年齢が50歳を過ぎた頃から、相続に関する相談が増えました。おそらく、同年代の方々が相続問題に直面する年代であることが、大きな理由だと思います。相続分野に限ったことではなく、同年代の弁護士のほうが話しやすい、相談しやすいと考える依頼者は少なくないのです。
また、私自身が相続を経験し、相続手続きの大変さを痛感したことも相続分野に注力するきっかけになりました。必要な書類が多かったり、提出する機関が多かったり、一般の方が独力でこれらの手続きを進めることは、相当な負担になるだろうと感じました。
この経験から、相続に関する依頼者の不安や困惑の気持ちが、より深く理解できるようになりました。そして、相続分野により一層注力することで、依頼者の負担を少しでも軽減したいと考えたのです。
どのような相談が寄せられますか。
相談内容として意外と多いのが、相続手続きそのものに関するものです。例えば、口座の解約や名義変更、関係各所への連絡など、相続に伴う諸手続きがわからず、「手続きをお願いしたい」という相談が寄せられます。
また、手続きの中には相続登記などもあります。相続登記の義務化により、今後はそうしたニーズも高まると考え、相続登記は独力で対応できるようにしました。
紛争に発展しているケースも少なくありません。遺産分割がスムーズに進まない場合や、遺言があるものの遺留分をめぐって計算や分析が必要となるケースなど、典型的な相続トラブルにも対応しています。
紛争になっているようなケースではどのような方針で臨まれるのですか。
可能な限り裁判所外での直接協議による解決を心がけています。特に、相手方に弁護士がついているケースでは、この方法が効果的だと考えています。
その理由は、遺産分割は経済的な問題が中心で、計算によって客観的な解決策を見出せるケースが多いためです。同じ家事事件でも離婚案件の場合は、親権問題が絡むため簡単にはいきませんが、相続の場合は合理的な話し合いが可能です。
また、相続案件では依頼者の年齢も重要な考慮要素となります。高齢の依頼者の場合、裁判所への出廷自体が負担になることもありますし、二次相続のリスクを考えると、裁判によって時間をかけすぎることは得策ではありません。
とはいえ、話し合いだけでは解決が長引く可能性もあるため、調停の申立ては行いつつ、並行して裁判所外での協議を積極的に進めるというアプローチを取っています。これにより、より迅速かつ効率的な解決を目指すことができます。
相続案件を手がける上で心がけていることを教えてください。
依頼者の「こだわり」を見極めることです。相続には、現金や不動産といった財産価値のあるものだけでなく、形見のように、資産価値が低いものの依頼者にとって感情的価値が高いものも含まれます。そのため、どの程度それらにこだわりがあるのか、早い段階で把握することが重要です。
形見などへの執着が強い場合、解決までの時間が長引く可能性も出てきます。こうした状況では、依頼者の感情を尊重しつつも、時には妥協が必要であることを少しずつ理解していただけるよう、丁寧に説得を重ねます。有益な解決策を見出すため、依頼者の思いに寄り添いながらも、よりスムーズな解決に向けてサポートしています。
相続登記にも柔軟に対応
相続問題を弁護士に相談するメリットにはどのようなことがありますか。
数字では解決できない「感情的な問題」について第三者として調整ができる点です。金額の計算や法的な手続きは、一般の方でもある程度は進められるかもしれません。しかし、相続では形見分けのように、単純に数字では割り切れない事柄も多く存在します。こうした場面で弁護士が間に入ることで、感情的な対立が抑えられ、スムーズな解決が図れることが多いです。
さらに、相続には生前贈与や親の介護に関する問題なども絡みます。これらは家族間で直接話し合っても解決しにくい場合があり、第三者の弁護士が関わることで問題が整理され、進展しやすくなります。
相続分野における事務所の強みや特徴を教えてください。
相続登記を私自身が直接手がけています。これにより、手続きの費用を抑えられるだけでなく、スピーディな対応が可能となっています。
また、相続税に関しても強力なサポート体制があります。弁護士登録前から親交のある相続税専門の税理士と長年の連携を築いており、相続税対策や申告に関する専門的なアドバイスを得られます。こうしたネットワークにより、依頼者にとっても安心して相続問題に取り組める環境を整えています。
これまでの活動で印象に残ってる相続案件はありますか。
母親の相続を巡って姉妹が激しく対立した案件が印象深いです。私は妹側の代理人を務めたのですが、姉が生前から母親の財産を使い込んでいるなど、紛争性の高い案件でした。しかも、当時はコロナ禍で調停が滞る状況でしたから、解決には非常に長い時間を要することが予想されました。
しかし、幸いにも相手方の弁護士が話の通じるとても優秀な方だったのです。交渉の中では、形見分けのような「これが欲しい、あれが欲しい」といった細かい争いも続きましたが、相手方の弁護士が姉を説得してくださり、私も依頼者に妥協を勧めながら話をまとめ、最終的に調停を行わず解決に至りました。
交渉期間は1年ほどでしたが、もし調停で争っていたら3〜5年はかかっていたかもしれません。代理人同士でまとめることができたおかげで、相手方弁護士からも感謝の言葉をいただき、短期間で解決できたことに私自身も大きな達成感がありました。
最後に、相続問題を抱えている方へメッセージをお願いします。
私自身の相続を経験した際に、想像以上に手続きが複雑で煩雑だと感じました。相続手続きを一般の方が扱うのは、非常に時間と労力を必要とし、ストレスがかかることだと思います。ですから、紛争性がなかったとしても、弁護士に頼ることで得られるメリットは大きいはずです。
弁護士に相談していただければ、手続きの進め方から、紛争に関してまで、サポートが可能ですし、心配事が軽くなり、安心して手続きに臨んでいただけると思います。