元銀行員の経験を活かし、企業の事業承継を多数手がける。経営や財務を踏まえたアドバイスが強み
愛知県名古屋市で「林法律事務所」を経営する林宗範弁護士(愛知県弁護士会所属)に、相続案件に携わる上で心がけていることなどを聞きました。林弁護士は、普段は企業法務に関わることが多く、事業承継の過程で経営者個人の相続問題にも取り組むことが多いそうです。相続について弁護士に相談・依頼するメリットについても詳しく聞きました。
インタビュー
銀行員から弁護士へ転身
事務所設立の経緯を教えてください。
銀行で10年間勤務した後、弁護士の道に進みました。もともと企業法務を中心に活動し、経営にも携われる仕事がしたいと考えていたため、弁護士になってからは企業法務を専門に扱う事務所で約3年間経験を積みました。その後、独立を決意し、自分の事務所を設立しました。
名古屋市東区は愛知県でも一番のビジネス街ですので、ここに事務所を構えようと決めました。
こうした経緯から、法人向けの企業法務を中心に業務を行い、幅広い企業をサポートしています。銀行での経験から、経営や財務に精通しているため、法的な視点に加えて、ビジネス戦略を踏まえたアドバイスができるのが強みです。
また、法人の顧問を務める中で、関係者からの紹介で離婚や相続などの相談を受けることもあります。
特に、中小企業の経営者から事業承継について相談を受ける機会が多く、経営者個人の相続も合わせてサポートするケースがよくあります。
事務所の理念や大切にしていることを教えてください。
スピード感を持って対応することと、依頼者のお話をしっかり聞くこと、分かりやすく説明することを大切にしています。
多くの依頼者は、自分の悩みを誰かに聞いてほしいという気持ちで相談に来ます。依頼者の思いを十分に聞かずに、法律的な結論を一方的に押し付けてしまうと、満足にはつながりません。そのため、まずは依頼者の話をじっくりと聞くことを心がけています。
また、依頼者は悩みに対する答えを求めて相談に来ますが、法律問題には「絶対にこうなる」と言い切れないケースも多くあります。その際、弁護士が「法律上どちらに転ぶか分からない」といった曖昧な回答をすると、依頼者は「弁護士でも分からないなら、私はどうすればいいの?」と不安になってしまいます。
そうした不安を与えないためにも、弁護士として少しでも可能性の高い見通しを示すことが重要です。そのため、依頼者の話を十分に聞き取ったうえで、「あくまで私の見解ですが」と前置きしつつ、「法律上こうなる可能性が高い」と具体的な方向性を提示するようにしています。
こうすることで、依頼者も安心し、方向性が見えたと納得していただけることが多いです。
相続について、よくある相談内容を教えてください。
中小企業の経営者から、子どもに事業を継がせたいという事業承継に関する相談を受けることが多いです。
事業承継の際には、経営権が分散しないように会社の株式を後継者に集中させることが重要なテーマとなるため、経営者が所有する他の財産も含めて、どの相続人にどの財産を相続させるかを総合的に考える必要があります。
そのため、事業承継と経営者個人の相続を一緒に進めることが多いです。
経営者の生前から準備を始める場合もあれば、相続が発生した後に二代目の方から相談を受けて手続きを進めることもあります。
親が元気なうちに、子どもとしっかり話し合うことが大切
事業承継では具体的にどのようなことをするのでしょうか。
事業承継の対応は、生前と死後で異なります。
生前の対応では、従業員や取引先への影響を最小限に抑え、事業の移行をトラブルなくスムーズに行うことが最優先です。
具体的には、経営者に複数の子どもがいる場合、誰が会社を継ぎ、他の子どもにはどの財産を分配するかを事前にしっかり話し合います。経営権を一人に集中させるために、株式は後継者がすべて取得し、他の兄弟には預金や不動産などの財産を分配するなど、バランスを取る工夫が必要です。
さらに、株式の移行は相続時ではなく、生前贈与として確実に済ませることをお勧めしています。こうすることで、後から相続争いが生じる余地をなくし、従業員や取引先への影響を最小限に抑えられます。
重要なのは、経営者が元気なうちにしっかり話し合うことです。家族全員が「親が決めたことだから従おう」という共通理解を持っていないと、後々になって、株式を取得できなかった子どもが「親が認知症になった後に無理やり同意させたのではないか」といった疑念を抱く可能性があります。
そのため、経営者が元気なうちに話し合いを行い、全員が納得できる状況を作っておくことが、トラブルを防ぐために大切です。
死後の対応については、生前に準備しておけば、計画通りに相続を進めればスムーズに終わります。しかし、事故や病気で突然亡くなる場合もあります。そうした場合は、法律に基づいて対応することになります。
経営者個人の相続ではどのようなことが問題になりやすいですか。
個人の場合、最も問題になるのは不動産の取り扱いです。不動産は分割が難しいため、特に不動産の価値に対して預金などの流動資産が少ない場合に揉めやすくなります。
例えば、不動産の価値が1億円で、預金が1000万円しかないとします。相続人が子ども3人の場合、1億円の不動産が1人に渡り、他の兄弟は現金1000万円だけになることが考えられます。
預金を相続する子どもたちは「家を売却して、その代金を分けよう」と言うかもしれませんが、不動産を相続する子どもは「私たちが育った家だから、売りたくない」と反対することで、対立が生じてしまうわけです。
こうした不動産に関するトラブルが、個人の相続ではよく起こります。
事業承継や相続案件を手掛ける上で心がけていることを教えてください。
家族内でのトラブルが中心ですので、できるだけ揉め事を避け、全員が納得できる形で解決することが理想だと考えています。お互いに譲れる部分は譲り、円満な解決を目指すよう心がけています。
とはいえ、どうしても避けられないトラブルもあります。その際は、依頼者の利益を最大限に守るため、どのようにすれば有利に進められるかを常に考えながらアドバイスします。
法律で大まかな結論は決まっているものの、細かい部分では交渉の余地が残されています。そうした交渉の場面では、相手の出方を予測し、準備を整えることで、依頼者にとって有利な結果を導けるよう努めています。
裁判で対立が激化する前に、円満に和解する方法を模索
事業承継や相続について弁護士に相談するメリットを教えてください。
まず、事業承継や相続の手続きについて自分で調べる手間が省けます。仕事が忙しく、なかなか時間を取れない方や、他の相続人との関係が悪く、精神的に負担を感じている方もいるでしょう。弁護士に相談すれば、専門的なアドバイスをすぐに得ることができます。
確かに弁護士費用はかかりますが、その分手間を省けることを考えると、弁護士に相談する価値は十分にあります。
次に、弁護士に相談することで次の行動や最終的な着地点が見えるようになり、気持ちが楽になります。相手が何を言おうと、時間がどれだけかかろうと、最終的にどうなるかが分かっていれば、心に余裕が生まれます。
また、専門家に任せることで手続きにミスがないという安心感もあります。自分でやる場合、誤った判断をしたり、不利な合意をしてしまうリスクがありますが、弁護士に依頼すればその心配がありません。
最後に、万が一トラブルが発生して争いになった場合でも、弁護士が裁判まで対応してくれるため、安心して任せられるという点もメリットです。
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
相続のトラブルはとてもストレスがかかるものですが、解決方法はたくさんあります。1人で悩まずに、ぜひ信頼できる専門家に相談してみてください。専門家のサポートを受けることで、よりスムーズに解決へと進むことができます。
お話を伺いながら、あなたの状況に合った最適なアドバイスを提供しますので、安心してお任せください。