豊富な経験を活かして「事件の落としどころ」を素早く見極め、法律に基づいた適切な解決へ導く
静岡県藤枝市で「藤枝やいづ合同法律事務所」を経営する家本誠弁護士(静岡県弁護士会所属)に、相続案件に携わる上で心がけていることなどを聞きました。訴える側と訴えられる側、双方の立場で多くの代理人を務めた経験から、どの辺りに妥協点があるか、いわゆる「事件の落としどころ」を比較的早く見極められることが強みだと語る家本弁護士。相続について弁護士に相談・依頼するメリットについても詳しく聞きました。
インタビュー
藤枝市や周辺地域の方々がより便利に利用できる法律事務所を設立
事務所設立の経緯を教えてください。
静岡市にある「静岡合同法律事務所」の支部として、藤枝市に「藤枝やいづ合同法律事務所」を設立しました。
もともと静岡合同法律事務所には、藤枝市やその周辺地域からの相談が多く寄せられていました。静岡市には比較的多くの弁護士がいますが、その周辺地域では弁護士の数が少なくなるため、藤枝市の方々も静岡市まで相談に来ることが多かったと思います。
従来は、弁護士側も依頼者に事務所まで来てもらうのが一般的でしたが、より地域に密着し、こちらから依頼者に近づいていく姿勢を取りたいと考えました。そのため、静岡市の中心部から少し離れた場所に事務所を開設することにしました。
実際にこの事務所の相談者や依頼者は、近隣の藤枝市や焼津市、島田市など、周辺地域の方々が多くなっています。そういった意味では、地域の方々にとって便利な場所に事務所を構えることができたのではないかと思います。
事務所の理念や大切にしていることを教えてください。
私が大切にしているのは、弁護士になった当初の「少しでも人のために役立ちたい」という思いを心に留めておくことです。
実際にその思いをどれだけ保てているか自信がない部分はありますが、初心を忘れないよう心がけています。
初心を忘れないために意識していることはありますか。
できるだけ時間をかけて話を聞くように心がけています。
弁護士としては、どうしても法律上の争点が何かを考えがちです。案件を解決するには重要なことですが、関係ないと思って話を遮ってしまうと、依頼者や相談者は、自分の話をきちんと聞いてもらえていないと感じ、不満を抱くことがあります。
争点とは全く関係のないことが、その方にとって実は重要だったり、どうしても不満に思っていることだったりすることがあります。そういった部分をしっかり汲み取らなければ、最終的な解決にはつながらないと思っています。ですので、たとえ案件の解決に直接関係がなくても、できるだけ話を聞くようにしています。
相続案件に注力している理由を教えてください。
相続分野にやりがいを感じることが大きな理由です。
親族間の争いは、他人同士の紛争よりも深刻になることが多いです。法的に解決しても、当事者が完全に元の関係に戻るわけではありません。それでも深刻な対立を解決する手助けができたときには、少しでも役に立てたことにやりがいを感じます。
たとえ証拠が不十分でも、依頼者の思いをしっかりと主張する
相続について、よくある相談内容を教えてください。
遺産分割の相談が多く、そのほかには、被相続人の預貯金を生前に特定の相続人が引き出して使ってしまい、不当利得の返還が問題となるケースもあります。また、養子縁組や遺言の無効に関する相談もあります。
最近の相談の傾向を教えてください。
被相続人の預金を特定の相続人が無断で引き出したというトラブルが増えていると感じます。
特に、被相続人の子どものうち誰かが被相続人と同居している場合、他の子どもたちは遠方に住んでいて交流が少ないことが多く、「勝手に預金を引き出した」と問題になることが多いです。
それぞれの立場で言い分があると思います。遠方に住んでいる子どもたちからすると、「預金は何に使ったのか」「どうして領収書を保管していないのか」という疑念が湧きます。
一方で、同居して被相続人の面倒を見ていた子どもにしてみれば、親のために使ったお金であって、自分のために使ったわけではないと主張します。実際、介護などで忙しく、細かいことまで気にしていられなかったという思いもあります。
弁護士として、私はどちらの立場のケースも経験しているため、双方の言い分もよく理解できますが、いざ争いになると熾烈になることが多いです。
相続案件を手掛ける上で心がけていることを教えてください。
親族間の感情的な対立が強い場合が多いので、依頼者の話をしっかりと聞きつつ、弁護士としては一歩引いて、客観的な視点で対応するように心がけています。依頼者の話を十分に聞いた上で、依頼者の主張が法的に認められるかどうかを、最終的にどこかの段階で冷静に伝える必要があります。
ただし、最初から「それは無理です」と言ってしまうと、依頼者が納得しにくいこともあります。そのため、調停などの話し合いでは、たとえ証拠が不十分であっても、依頼者が不満に感じている点を相手方や調停委員にしっかりと伝えることを大切にしています。
最終的には、証拠がなければ認められない現実を、徐々に依頼者に理解してもらうように努めています。依頼者の気持ちに寄り添い、相手方や調停委員に主張を伝えながらも、現実的な解決を目指してバランスを取ることを心がけています。
相続について弁護士に相談するメリットを教えてください。
弁護士を介入させることで、法律に基づいた正しい解決ができることが、弁護士に相談するメリットです。
もちろん、当事者同士が納得しているのであれば、法律に基づいている必要は必ずしもないのですが、もし不満がある場合には、弁護士に相談して、法律に基づいた正しい解決を求めることが大切です。
弁護士が交渉の窓口となることで、依頼者のストレスを軽減できる
早めに弁護士に相談した方がよい理由を教えてください。
弁護士に早めに相談することで、ストレスを早い段階で軽減できるからです。
特に相続問題では、親族間の関係が悪化しやすく、それに伴ってストレスも大きくなります。そういった状況で弁護士が第三者として介入し、依頼者に代わって交渉の窓口になることで、依頼者の負担を軽減できます。
先生の事務所ならではの強みを教えてください。
弁護士としてもうすぐ30年になり、これまで多くの案件を手がけてきました。
また、訴える側と訴えられる側、どちらの立場でも数多く代理人を務めてきた経験があるため、どのあたりで妥協点を見つけられるか、いわゆる「事件の落としどころ」を比較的早く見極めることができると思います。そうした豊富な経験が、私の強みだと感じています。
これまで取り組んできた相続案件の中で、印象に残っているものはありますか。
被相続人と養子縁組をした長男の妻が、他の相続人(長男の兄弟)から養子縁組の無効を裁判で訴えられた案件が印象に残っています。
依頼者は長男の妻で、長男が亡くなった後も長年にわたり被相続人と同居し、世話をしてきました。養子縁組が行われたのは、被相続人が介護施設に入所していた時期で、そのときに被相続人の認知症が進行していたことは事実です。
裁判では、依頼者が被相続人に長年尽くしてきた事実を時系列で整理し、裏付けとなる証拠とともに書類を作成して提出しました。
具体的には、依頼者が結婚後すぐに被相続人と同居を始め、日常的な家事を担当していたこと、旅行にも一緒に行くほどの親しい関係だったこと、そして被相続人の介護をどう行ってきたか、介護施設に入所後もどのように関わり続けていたかなどを詳細に記載し、依頼者が他の子どもたちよりも被相続人に深く関わり、被相続人が依頼者を頼りにしていたことを示しました。
その上で、たとえ被相続人に認知症があったとしても、長年の関係を背景に依頼者と養子縁組をすることは不自然ではないと主張しました。最終的に、裁判所はこちらの主張を全面的に認め、養子縁組を有効と判断しました。
判決を受けて、依頼者はとても安心した様子でした。もし養子縁組が無効とされていたら、現在住んでいる家を相続できず、住む場所を失ってしまう可能性がありました。依頼者もすでに高齢であり、生活を支える財産を相続できなければ生活が立ち行かなくなる恐れもありました。
被相続人の認知症の進行があったため、養子縁組が無効になるかもしれないという不安がありましたが、結果として有効と認められ、本当に良かったと思います。
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
家族や親族間のトラブルを誰かに相談するのに、恥ずかしさやためらいを感じるのは自然なことだと思います。
しかし、弁護士は日常的にそういった問題を扱っていますので、恥ずかしいと思う必要は全くありません。弁護士には守秘義務がありますので、どんな内容でも安心してご相談いただけます。
身内だからこそ悩んでしまうこともあるかと思いますが、早めに専門家に相談することで、その分、悩む時間を減らすことができるはずです。どうぞ早めにご相談ください。