家族間の無用な感情的対立を避け、法律のプロとしての冷静な立場から相続問題の解決をサポート
北海道札幌市にある「中村憲昭法律事務所」の中村憲昭弁護士(札幌弁護士会所属)に、相続分野の取り組みについて話を聞きました。事務所を開設してから20年、「ねばり強さ」を武器に地域の相続問題に取り組んできた中村弁護士。相続問題を扱う際に心がけていることや弁護士に相談することのメリットについて詳しく聞きました。
インタビュー
司法修習で訪れた地で事務所を開設
事務所設立の経緯を教えてください。
2000年10月に弁護士登録をして、札幌市内の法律事務所に就職しました。千葉県出身である私が、札幌を活動の拠点として選んだ理由は2つあります。
1つは、司法修習期間を札幌で過ごしたことで愛着が湧いたことです。札幌の街並みや人々の温かさに触れ、この地で弁護士として働きたいと強く思いました。
2つ目は、幅広い案件を手がけたいと考えたことです。特許法のような分野に特化するのでなければ、必ずしも東京のような大都市にこだわる必要はないと思ったのです。
勤務弁護士として4年間経験を積んだ後、2004年10月に独立開業しました。当時は数年間の研鑽を積んでから独立するのが一般的だったため、私も自然と独立する流れになりました。
現在、事務所には私の他にもう1人、女性弁護士が所属しており、2人で地域の皆様の法律問題に対応しています。
事務所の理念を教えてください。
弁護士になった当初から、社会的弱者の立場に立つことを理念としてきました。しかし、「弱者」の定義は変化していると感じます。
弁護士になった当初は、個人が弱い立場にあると考えていました。しかし、中小企業の経営者の方々と接する機会が増える中で、社会で最も弱い立場にいるのは、経営者ではないかと考えるようになったのです。
ただし、それもあくまで概念的な話であり、事案ごとに立場は変わってくるものだと感じています。労働問題であれば、使用者側にも弱い立場の方がいれば、労働者側にも恵まれた環境の方がいるように、一概に「労働者=弱者」といった構図では捉えていません。
また、「正義」という言葉を安易に振りかざすべきではないと考えています。正しさの概念は相対的なものであり、依頼者一人ひとりの置かれた状況に応じて、柔軟に考えていく必要があります。事案ごとに適切な判断を下し、本当の意味で助力を必要としている方に寄り添っていく。それが私の目指す弁護士像であり、事務所の理念でもあります。
客観的証拠があるかを見極めることが大事
相続分野に注力しているのはどのような理由からですか。
相続問題は、本来は親しい関係にある家族間で発生する問題です。法律的な理屈よりも感情的な対立が先行し、それが紛争を激化させる大きな要因となります。そのような感情的な対立が顕著化した問題にこそ、弁護士のような冷静な第三者が関与する意義があると考えています。
どのような相談が寄せられますか。
最も多いのは、遺産分割に関する相談です。兄弟間の争いが特に多いですが、先妻の子と後妻の子との争いなど、家族の関係が複雑な場合は、紛争が起こりやすい傾向にあります。
寄与分に関する相談も増えています。典型的なのは、親の介護をしていた相続人が寄与分を主張する一方で、他の相続人はあくまで法定相続分に従って分割すべきだと要求するケースです。
また、被相続人が多額の財産を持っていたはずなのに、いざ相続が発生してみると思ったより遺産が少ないというケースもあります。このような場合は財産の使い込みが疑われ、被相続人の生前のお金の流れを詳細に調査していく必要があります。預貯金の出し入れ、不動産の売買、贈与など、あらゆる可能性を検討しながら、問題の解明に努めます。
相続案件を手がける上で心がけていることを教えてください。
依頼者の主張に裏付けがあるかどうかを確認することです。つまり、依頼者の言い分に客観的な証拠があるのかを見極めることが重要だと考えています。ただし、証拠の有無だけで依頼者の主張を突き放すようなことはしません。
依頼者の言いたいことを傾聴し、共感する姿勢が大切です。その上で、「この部分については証拠が不足しているため、主張が通りにくい面もあります」というように、客観的な視点から問題点を指摘します。
できることとできないことを明確に伝えることは必要不可欠です。依頼者の言い分を鵜呑みにして、メガホンのようにその主張を大きくするだけでは、問題の解決にはつながりません。
依頼者の声に耳を傾けながらも、あくまで法律の専門家としての冷静な判断を心がけることがなによりも重要だと考えます。
依頼者のためにはどんな小さな可能性も見逃さない
相続問題を弁護士に相談するメリットにはどのようなことがありますか。
最大のメリットは、当事者間の感情的対立を避けられることです。弁護士という第三者が間に入ることで、当事者が直接対峙する必要がなくなります。それだけでも、紛争の沈静化に大きな効果があります。
また、弁護士には一般の方にはない調査能力があります。相続問題の解決には、被相続人の財産や戸籍など、様々な情報を収集し、整理する必要があります。弁護士は、何をどのように調べればよいかのノウハウを持っています。
相続は法律問題であると同時に、家族の問題でもあります。法律の専門家である弁護士が、無用な感情的対立を避けつつ、冷静な立場から問題解決のサポートをすることには、大きな意義があると考えています。
交渉による解決と調停とではどちらを重視しますか。
私は基本的に、早い段階で調停に持ち込むことを依頼者にお勧めしています。その理由は、弁護士に相談に来る時点で、当事者間の話し合いが難しい状況になっているケースが多いからです。そのため、話し合いで解決する可能性は低いと考えます。
早い段階で調停を申し立てることには、2つのメリットがあります。1つは、調停不成立の場合には審判という形で、最終的な結論が出せることです。これにより、紛争の長期化を防ぐことができます。
2つ目は、裁判所の調停委員という公平な第三者を間に挟むことができる点です。弁護士は依頼者の代理人であるため、相手方から見れば一方当事者の代弁者でしかありません。
しかし、調停委員という中立的な立場の人が間に入ることで、当事者間の歩み寄りを促すことが可能です。
初回の相談の流れを教えてください。
まずは電話で簡単にお話を伺い、初回の打ち合わせ日を設定します。その際、ただ日程を決めるだけでなく、10分から15分程度お話を伺うことが多いです。
亡くなった方(または亡くなりそうな方)がどなたか、法定相続人は誰か(お子さんはいるか等)を確認します。そして、初回の打ち合わせに向けて、戸籍謄本や亡くなった方の除籍謄本など、相続人を確定するための書類や、可能な範囲で親族関係図を作成していただくよう伝えます。
初回の打ち合わせでは、事前にいただいた情報をもとに、相続人が誰か、どのような財産があるか、どのような点で争いになりそうかを整理しながらお話を進めます。このように、初回の打ち合わせ前の電話での段取りを丁寧に行うことで、当日のご相談をスムーズに進められるよう心がけています。
相続案件における事務所の強みや特徴を教えてください。
最大の強みは、「ねばり強さ」だと自負しています。例えば、問題解決の鍵となる直接的な証拠がない場合でも、間接事実を丹念に積み重ねていくことで、依頼者の主張を裏付けていきます。
相続案件ではありませんが、長期間別居していた夫婦の財産分与の問題を担当したことがあります。多くの金融機関では、預貯金の取引記録は10年分しか遡れません。そのため、「妻にはこれくらい財産があったはずだ」という依頼者の主張を、直接的な証拠で立証することは困難でした。
しかし私は、相手方の過去の収入と支出を詳細に分析し、推計を行いました。その結果、「財産は少なくとも、これくらいは残っているはずだ」という主張を展開することができたのです。
これは、ねばり強く間接事実を積み重ねていった結果といえます。依頼者の利益を守るためにはどんな小さな可能性も見逃さない。それが当事務所の信念です。
最後に、相続トラブルを抱える方へメッセージをお願いします。
弁護士に相談することで、法的な観点から見た問題の整理ができます。何が問題の核心なのか、どのような解決策があり得るのか。こうした点を、法律の専門家である弁護士から説明してもらうことで、問題の全体像が見えてくるはずです。
弁護士に相談したからといって、依頼しなければならないわけではありません。相談だけでも構いません。大切なのは、対立が激しくなる前の早い段階で弁護士に相談することです。
相続を巡るトラブルでお困りの方は、ぜひ一度、弁護士に相談されることをおすすめします。