相続は亡くなった人の意思を尊重することが鍵。岐阜出身の弁護士による地域に根ざしたサポート
今回は、岐阜県岐阜市で働く飯沼敦朗弁護士(いちい法律事務所)にインタビューを行いました。飯沼弁護士は信託銀行での勤務を経て、2001年から弁護士として活動しています。本編では具体的に、弁護士として大切にしていることや相続の対応方針、事務所の強みなどを聞きました。(岐阜県弁護士会所属)
インタビュー
地域のニーズに合った法的サポートを提供
事務所設立の経緯を教えてください。
私は岐阜県大野町の出身で、高校生までを岐阜県で過ごしました。大学からは県外に出ましたが、ご縁あって地元に戻り開業し、今に至ります。
大学卒業後は信託銀行に勤めたものの、仕事をする中で、バブル崩壊後の金融業界に不安定さを感じるようになりました。自分の意思で人生を決める、そんな生き方をしたいと思い、新たな道として弁護士を志しました。
銀行では会社法や商法の知識を使う業務をしていたことや、母が司法書士だったことから、法律には馴染みがありました。約10年間勤めた銀行を退職して司法試験を受験し、弁護士として仕事を始めました。
地元で法律事務所を開業した後は、地域柄もあって、相続分野に携わることが自然と多くなりました。実家の司法書士事務所を継いだ兄と協力しながら、対応しています。
どのようなご相談が多いですか?
岐阜の中でも田舎に住んでいる高齢者からのご相談が多いです。内容としては、長年放置され名義変更が完了していない不動産のある相続や、数次相続(相続発生後の遺産分割が終わらないうちに相続人が亡くなり、次の相続が発生してしまうこと)といった、複雑なご相談が寄せられます。
都会と異なり、価値がつきにくい山林などの不動産を含む相続の相談が多いことも特徴的です。このようなケースは解決に手間と時間がかかるので、正直なところ、積極的に対応している弁護士は少ない印象があります。ある意味ニッチな分野と言えるかもしれませんが、地域のニーズに応えたいと思って取り組んでいます。
弁護士として大切にしていることを教えてください。
あくまで第三者的な立場で、「問題解決のお手伝いをするだけ」というスタンスでいることです。決して「何でもできる」とは言い切らず、法律知識や交渉・裁判の技術を使う専門家として、問題解決に取り組みます。状況にもよりますが、すぐに裁判をするのではなく、できるだけ話し合いで和解を目指すようにしています。
弁護士は依頼者あっての仕事です。依頼者の希望を尊重すべきことは前提として、依頼者が抱える問題をより広く見て、全体がプラスになる解決をしたいと考えています。具体的には、目先の問題だけを見るのではなく、依頼者のこの先の人生や、相続であれば親族全体の幸せを考慮したうえで、全体がプラスになる解決を目指すのです。
そのため、中には「冷たい(被害者の自分を助けようとしてくれない)」と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私は依頼者の人生を慮るからこそ、目先の問題や感情に囚われない解決策を提案するようにしています。問題解決によって、次の人生に向けて本当の意味で前向きな気持ちになっていただきたいという想いからです。
亡くなった人の気持ちも尊重した相続を
相続の対応で心がけていることや、対応方針を教えてください。
相続案件では、全体像を把握するための丁寧なヒアリングとともに、亡くなった人の意思を尊重することを心がけています。遺産は、天から降ってきた財産のようなものです。亡くなった人が一生懸命築いた財産を、どうやって分けるか、という観点で考えたいと思っています。
亡くなった人が生きている間にどのように財産を使うかは自由ですし、亡くなったあとも介護への貢献度など、実情に合わせて遺産を分割するのは自然なことではないでしょうか。そのため、私は家族の人間関係の深いところまで伺ったうえで、最適だと思う解決方法・分割方法をご提示します。
相続人の中には「法定相続分が必ずもらえる」と思っている方も多いですが、実際はそうとは限りません。岐阜の田舎では長男が全て相続するケースが多いです。これは家を継ぐためであったり、親の介護をしていたりすることが理由です。私は岐阜の実情を把握しているため、時には法定相続分にこだわらず、個別の事情に合わせた分割方法をご提案しています。
特に初回の相談で注意していることはありますか?
依頼者の話をじっくりと聴くことです。相続は何十年もの間の家族関係が背景にあるため、過去の経緯まで遡って話を聞かないと、適切な戦略や方針が立てられません。
また、一方の言い分だけを聞いていると、偏った見方になりがちです。例えば「兄弟の誰それだけが良いものをもらっていた」という話はよく聞きますが、親の立場からすればその背景には理由があることも多いのです。そういった情報をしっかりと聞き取ることで、より公平な判断ができます。
遺産分割協議案を作成する際にも、こうした詳細な情報が必要です。亡くなった人がどのように財産を使い、管理していたか、その想いまで理解することが重要です。
相続トラブルならではの難しさや、やりがいはありますか?
感情が絡む難しい問題だからこそ、解決したときやその過程で、依頼者だけではなく相手方からも喜ばれると嬉しいです。「トラブルの当事者として勝つ」というスタンスではなく、仲裁者という第三者的な立場で関わるからこそ、関係者全員から喜んでもらえることがあります。
時には、相手方に宛てて長い手紙を書きます。「こういう理由でこの遺産をこちらが受け取る代わりに、あなたには別の遺産を受け取ってほしい」「話し合いで解決できず、調停や審判になるとあなたにも負担がかかってしまう」など、丁寧に説明するのです。手間をかけることで、数十人の相続人からスムーズに返事がもらえると、手続きが順調に進みます。依頼者にも喜んでいただけて、嬉しいですね。
徹底したヒアリングを通して信頼関係を築く
貴事務所ならではの強みや、他の事務所との違いを教えてください。
丁寧なヒアリングと細やかな対応です。遺産分割協議案を作るときには、2時間以上をかけて話を伺うことも珍しくありません。弁護士一人の小規模な事務所なので、運営経費が小さく済むこともあり、時間をかけて丁寧に対応できるのです。
また、銀行員としての社会人経験も活きていると感じています。当時は、銀行の本部と取引先との間に挟まれながら、多くの難しい調整を重ねました。遺産分割を進めるときなどに、当時の経験を活かしつつ、対応にあたっています。
また、税理士や司法書士(兄)とも連携しているため、相続税対策が必要な相続や、不動産を含む相続に関してもスムーズに対応できます。
印象に残っているご相談はありますか?
相続は、解決までに時間がかかるケースが珍しくありません。長期化していた案件を解決できたときは、嬉しいですね。一方で、事件が長くなればなるほど、先が見えなくなり、依頼者は嫌気がさしてくるものです。そうならないよう、事件の経過報告を頻繁に行い、状況や情勢を細かく説明するよう心がけています。
長くなってくると、相手方の主張が理解できなくなり、困惑することもあるでしょう。そのようなときも、「このような理由でこう主張しているのだろう」「弁護士がこのような戦術を取っている」と、経験を交えて説明しています。
このようなコミュニケーションを丁寧に行うことは、手間がかかります。しかし、細やかな対応を欠かさないからこそ、依頼者と信頼関係を築けると思うのです。解決に向かう過程で依頼者との歩調が乱れると、依頼者にとっても弁護士にとってもダメージがあります。問題の解決を目指すためには、信頼関係を築き、保つことが重要です。
信頼できる弁護士を見つけてください
相続のトラブルを抱えて弁護士への相談を検討している方に向けて、メッセージをお願いします。
まずは「最終的にどうしたいのか」を教えてください。ご自身で決断することが重要です。最終的なゴールさえ明確になれば、たどり着くための過程は弁護士が考えます。一方で、中にはそのゴールが明確ではない方もいらっしゃるでしょう。法律相談の中で一緒に明確化することも可能ですので、ぜひ弁護士の力を使ってください。
また、弁護士選びは相性も大切です。弁護士によって対応方針が異なる場合もありますので、可能であれば複数人に相談してみることをおすすめします。信頼関係が築けると思った弁護士に、信頼して任せていただければ幸いです。
私は弁護士として、依頼者が前を向いて新たな一歩を踏み出せるよう、解決までしっかりとサポートします。