相続問題で大切なのは依頼者を理解すること。生まれ育った多摩エリアで地域に密着したサポート
東京都立川市にある「順風法律事務所」の松村武弁護士(東京弁護士会所属)に、相続分野の取り組みについて話を聞きました。2011年の事務所開設以来、地域に根ざした法律サービスの提供に尽力してきた松村弁護士。家事調停員の経験や書籍の執筆など、相続問題への独自のアプローチや、弁護士に相談することの重要性について詳しく聞きました。
インタビュー
地域に根ざした活動をするうえで相続分野は欠かせない
事務所設立の経緯を教えてください。
2011年に順風法律事務所を開設しました。それまでは有楽町にある法律事務所に15年間所属していました。当時は独立志向が特別強かったわけではなく、当時の事務所に残る選択肢も考えました。しかし、将来のことや自分のライフスタイルを見つめ直した結果、新しい環境で挑戦することが自分の成長につながると確信し、独立に踏み切りました。
独立の場所として立川市を選んだ理由は、自宅が近いこと、そして、私の出身地が小平市で、多摩エリアには幼い頃から馴染みがあったためです。そして、個人事件を中心に地域に根ざした活動をしたいと考えました。
事務所の理念を教えてください。
依頼者の真のニーズを捉え、納得のいく解決を提供することです。一つとして同じ事件はありません。表面上は似たような案件に見えても、その背景にある出来事、依頼者の置かれている状況、そして依頼者が何を望んでいるかは、それぞれ異なります。
依頼者に満足いただける解決をするためには、事案を理解するだけでなく、依頼者の生活や考え方、大切にしてきたこと、そして一番望んでいること、その人自身を理解することが必要だと考えています。
相続分野に注力しているのはなぜですか。
弁護士になった当初から、企業案件よりも個人案件にやりがいを感じていました。それは、依頼者の日々の暮らしに直接影響を与えるからです。
その中でも相続は、誰もが一度は関わる身近な問題です。地域に根ざした活動を行ううえで、相続は欠かせない分野だと考えました。
依頼者が一番大切にしているものを理解する
どのような相談が多いですか。
相続に関する相談は多岐にわたりますが、特に多いと感じるのは兄弟間の争いです。例えば兄が親と同居し、一方、弟が遠方に住んでいるようなケースです。このようなケースでは、双方の認識が全く違うことが多いです。
同居している兄は「自分が親の面倒を見てきた。弟は両親に対して何もしていないのだから、相続する額が少なくても当然である」と考えます。他方、遠方に住む弟は「同居している兄は親から色々な援助をずっと受けていた。自分は両親から何もしてもらっていない。だから、相続では多く貰うのは当然である」と考えています。このような認識の違いは、相続問題をより複雑にする要因となります。
例えば、同居していた兄が親の土地の上に自分の家を建てて住んでいるケースです。遺産に預金、株式などがあり、土地を取得する代わりに、弟に代償金が払える場合は良いのですが、その代償金が支払えない場合は土地を売却して分割しなければなりません。弟は自宅、そして生活基盤が失われてしまう危険性が生じます。
また、同居している相続人は親の財産状況を把握していますが、遠方に住む相続人は財産について詳しい情報を持っていないことが多いです。この情報格差が不信感を生み、問題をこじらせることもあります。
そのようなケースでは、どのような方針で解決に向けて進めていくのですか。
依頼者が何を一番大事にしているかを把握することが重要だと思います。全ての希望が叶えられるケースはほぼありません。親と同居していた相続人がそこで暮らし続けることを第一に考えるのであれば、ほかのどこかで譲歩する必要があります。
感情的な対立を抑え、円満な解決のための着地点を見出すことが大切だと思います。
相続案件を扱う上で心がけていることを教えてください。
依頼者が一番何を大切にしているのか、そして何を望んでいるのかを、確実に把握することが重要だと思っています。
すべてが依頼者の希望通りに進むわけではありませんが、優先順位をしっかりとつけ、最も大事なものを確実に守ることができるように努めています。そうすることが、最終的に依頼者が納得できる解決に繋がると考えています。
また、依頼者のお話をよく聞くことも大切です。法律とは直接関係のないところに問題の本質が隠れていることもあります。その部分をしっかりと捉えて解消できれば、その後の話し合いがスムーズに進むこともあります。
相続問題を弁護士に相談するメリットはどのようなことがありますか。
結論から言えば、依頼者にとって良い結果になることが多いはずです。
自分がどのようなことを主張できるかが明確になります。例えば、特別受益や寄与分などは、弁護士に相談することで適切に主張できるようになります。
逆に、相手方から何か言われたときも、弁護士に相談することでそれが法的に正しいのかを判断できます。正しい知識がないまま相手の不当な要求を受け入れてしまい、後悔するということも避けられます。
それ以外にも、相続問題は感情的になりやすいため、当事者同士では話が進展しないケースが多々あります。そこに法律の専門家である弁護士が入ることで、冷静な話し合いが可能になり、早期解決につながる場合もあります。
また、忙しい日々の生活に加え、相続問題を自分で処理することは、依頼者にとって精神的にも時間的にも非常に大きな負担になります。弁護士に依頼することでそのような負担を大幅に軽減することができます。
家事調停委員と相続関連書籍執筆の経験を活かす
相続分野における事務所の強みや特徴を教えてください。
私は立川家庭裁判所で調停委員を務めており、これまでに多くの相続案件を取り扱ってきました。その経験から、裁判所でどのように事案が処理されるのかを熟知しています。裁判所の考え方や手続きを理解していることで、依頼者にとってよりよい解決策を提案できると思います。
また、相続に関する書籍を出版しています。現在、相続法改正に合わせた改訂版の準備を進めており、相続法について常に最新の知識をアップデートしています。本を出版する過程で学びを深めることで、依頼者に提供できる知識と解決策も豊富になっていると感じています。
これまでの活動で印象に残っている相続案件を教えてください。
相続人は被相続人の妻(依頼者)、幼い子、そして先妻の子でした。依頼者は自宅にこのまま住み続けること、そして、幼い子の今後の生活費、教育費を確保したいとの希望でした。遺産分割調停では、評価に争いがあった自宅の価格、生命保険金の持ち戻しなどについて争いがありました。
最終的には、依頼者と子が自宅を取得し、代償金を支払う形で調停が成立しました。依頼者と子は一番の希望通り、自宅に住み続けることができることになりました。
また、生命保険金の持ち戻しをしないことで合意できたことから、相手方に支払う代償金額も抑えることができ、子の将来の生活費、教育費をある程度確保することができました。
最後に、相続トラブルを抱えている方へメッセージをお願いします。
何よりもまず、早めに相談することをおすすめします。
相続問題は複雑で、法律的な知識がないと全体像が掴みづらいものです。弁護士に相談すれば、現状の問題点や今後の見通しを整理することができます。早い段階で専門家の助言を得ることで、トラブルの拡大を防ぐことにもつながるでしょう。
もちろん、最初の相談がすぐに弁護士への依頼につながる必要はありません。まずは気軽に相談し、その上で必要に応じて弁護士に依頼するのが賢明だと思います。
また、相続トラブルを未然に防ぐという点では、生前の遺言書作成も非常に有効です。遺言書があれば、相続人間の争いを防ぐことができますし、被相続人の意思を尊重した財産分与が可能になります。
ただ、遺言書は本人が元気なうちに作成しておくことが大切です。病気などで体調を崩してしまうと、本人にとっても家族にとっても、心情的に遺言書を作成するのはハードルが上がってしまうことが多いように思います。
相続問題は適切な対策を講じることが何より大切です。お悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。